FAKE (2016):映画短評
FAKE (2016)ライター2人の平均評価: 5
思考停止をもたらす“わかりやすさ”という病へのショック療法
疑惑に満ちたペテン師の真実が明かされる――そんな期待を抱くなら、扇情的な週刊誌の見出しで社会を捉えている証左。これは、マスメディアが作り上げ思考停止をもたらす、“わかりやすさ”という病へのショック療法のようなドキュメンタリーだ。レッテルを貼られた男の人間味に触れ、妻との関係を通して愛おしささえ覚えたかと思えば、虚実の見分けがつかない事態に放置され、混沌の渦に包まれる。メディアリテラシーに応じて多様な解釈を呼び起こすだろう。善悪や真偽に単純化せず物事を見つめれば、確かなことなど何もない。一面的な見方にすぎない報道を疑ってかかり、自分の目を見開き耳を澄まして思考せよ、と映像は語りかけてくる。
星、何個でも差し上げたい面白さ!
これ、大ヒットするんじゃないかな?
舞台はほぼ佐村河内夫妻の自宅。言わば「疎外された空間」を拠点に、森達也監督が徹底して対象者に寄り添う。世間と対立する側に介入したカメラが呼び込むもの、という視座は『A』と同様だが、私見では今回のほうが遥かに大きな問題圏を掴んでいると思う。
それは日本社会の、この世界の、人間の生々しい一断面だ(そこにメディア論も内包される)。謎かけ的なタイトルにちなんで言えば、現実は嘘と真実が幾層にも折り重なっており、信じる事も疑う事も、きっと我々が考えているよりずっと難しい。
しかもベテランクルーの仕事だよ。その意味でも今年の「怒りのデス・ロード賞」最有力!?