疑惑のチャンピオン (2015):映画短評
疑惑のチャンピオン (2015)ライター2人の平均評価: 3
スポーツ界を揺るがせたスキャンダルの真実にびっくり
ロシア陸上界がドーピング疑惑に揺れるこの時期にぴったりな実話ドラマだ。ガンを克服後にツール・ド・フランスで7冠を成し遂げたランス・アームストロングの洗練されたドーピング術と不屈のヒーローを求めて事実二目をつぶる大衆心理、金のなる木に甘いスポーツ界の暗部が次々と暴かれていく。体に悪そうなドーピングにあえて手を染めるのは勝利への強い欲望だし、ぎりぎりまで疑惑を認めなかったランスの図太さはたいしたもの。心の強さに肉体が追いつけなかったのが残念ね。とはいえ、映画で見る限りはランスって自己顕示欲と勝利欲にまみれたナルシスト野郎なので、反ドーピングじゃない私ですら真実を暴く新聞記者に肩入れしてしまった。
行動の是非ではなく、ひとりの人間の複雑な魅力に迫る
ドーピング問題を描くのではなく、関係者たちの行動の是非を問うのでもなく、ただこの、ランス・アームストロングという類い稀な人物を描こうとする。この姿勢が痛快。
この人物にとって正しさとは何か。この人物がやろうとしたことは何か。その人を惹きつける魅力、情熱、常軌を逸した部分、可愛げ、怖しさといった、さまざまな顔が多面的に浮かび上がってくる。
ともすれば何かを糾弾する話になりかねない題材を、そんなこととは無縁の魅力的な物語に仕上げたのは、「クイーン」等の監督スティーヴン・フリアーズと、「トレインスポッティング」等の脚本家ジョン・ホッジという英国出身コンビの力だろう。