メッセージ (2016):映画短評
メッセージ (2016)ライター5人の平均評価: 4.6
[映画]の話法を革新し[私]の人生観に変化をもたらす至高体験
「感動的」では不充分。「哲学的」と評すだけでは思考停止に陥る。湧き起こる想いは、まず「敬意」だ。ファーストコンタクトものでありながら、対立や友好を描くわけではない。宇宙船、異生命体、表義文字――斬新極まりない形はすべてテーマへと結びつく。為政者の稚拙なプライドや好戦的な衝動が世界を危険にさらす今、改めてコミュニケーションとは何かと考えさせる。マクロな出会いを通し、実はひとりの女性の内的な物語が綴られる。語り口に息を呑む。信じて疑わなかった映画的話法を革新しながら、ヒロインの価値観の変容を、観る者にも味わわせる。これは未知なる存在との対話を通し、既成の人生観から解放される至高の体験だ。
哲学的な人生観にうなったファースト・コンタクトもの!
『未知との遭遇』や『ET』などなど、異星人とのファースト・コンタクトものは名作が多いけど、最高傑作といってもいいのが本作。地球に飛来した異星人の目的を探るために軍に請われた言語学者ルイーズが彼らの言語を解き明かそうと努力する姿に未知の存在を恐れる人類の本能を絡めるのは定番だが、コミュニケーションを超える異星人の言語パワーを徐々に明らかにする丁寧な作り方なので物語にぐいぐい引き込まれる。SFだが、根底には哲学的な人生観が横たわっていて、見終わったあとで「私なら?」と考えた。演技巧者エイミー・アダムズの演技はもちろん、脚本が素晴らしい。セリフの時制を確認するためにも2度以上は見てほしい。
哲学的かつ観念的な傾向の強い『未知との遭遇』
基本プロットは典型的なエイリアンとのファースト・コンタクト物。果たして彼らは友好的な来訪者なのか、それとも邪悪な侵略者なのか。その対応を巡って各国の思惑が錯綜し、一触即発の危機的状況を招いていく展開にも既視感を覚える。
ただ、そのいずれもが本作の核心ではない。焦点となるのは、未知なるものを受け入れ理解することで、物事を全く別の角度や次元から解釈することが出来るようになるということ。エイリアンの言語を解き明かしていくプロセスが重要な意味を持つ。
かなり哲学的かつ観念的な傾向の強い作品であり、それゆえ万人に受け入れられることは難しいかもしれないが、挑戦的な試みであることは間違いないだろう。
新しい視点から描くエイリアン物語
ほかの惑星の生物が地球にやって来るという映画は、昔から数多い。地球を攻撃しようとするものもあれば、人間の中に入り込もうとするものもあるが、今作のエイリアンは、何が目的なのかわからない。それを判明させるために雇われたのが、言語学者である主人公ルイーズ(エイミー・アダムス)。世界中で危機感が迫る中、プレッシャーをかけられるが、エイリアンたちの言語を理解するには、時間がかかる。
“コミュニケーション”という視点も新しければ、手から墨のようなものを投げ出すエイリアンの“言語”もおもしろい。そして、最後には、この思わぬ遭遇が、ルイーズ個人にとってどんな意味があったのかも明らかになる。
原作の尊重と大胆なアレンジ。その両立が絶妙
この原作小説を映画化するには、難問が2つある。一つは、異星人の"ある認識方法"をどのように映像化するか。もう一つは、それに関連する異星人の"言語"をどのように視覚化するか。
本作は、この2つの難関を見事にクリア。それだけでなく、原作のテーマを変えることなく、映画的なアレンジを多量に加えて、原作よりもスリリングかつ原作と変わらない感動を与えてくれる映画に仕上げている。この原作の尊重と巧みな脚色の両立ぶりを見れば、この監督が名作SF「ブレードランナー2049」「デューン 砂の惑星」に抜擢されたのも納得。とくに脚色の妙技については、原作を読んで比較すると面白さが倍増する。