残像 (2016):映画短評
残像 (2016)ライター2人の平均評価: 4.5
我々が真摯に向き合うべき巨匠ワイダの遺言
ポーランド映画の巨匠アンジェイ・ワイダの遺作は、第二次世界大戦後の共産党政権による徹底した思想弾圧によって、人生を180度変えられてしまった実在の芸術家の物語である。
己の芸術的な信念を貫き、国家の押し付ける画一的な方針に従わなかっただけで、社会的に抹殺されてしまうという理不尽。危険人物のレッテルを貼ることで仕事を奪い、権利を奪い、あらゆる生活手段を奪って生殺しにする権力の卑劣さには背筋が凍る。
いまだにロシアや中国などでは公然と人権弾圧が行われ、そればかりか日本を含む世界中で表現の自由が脅かされつつある昨今、これは過去の悲劇から学んで欲しいというワイダの残した切実なる未来への遺言だ。
ワイダという鉄の男の残像
ストレート。90歳で亡くなったアンジェイ・ワイダの遺作だが、「言いたいこと」が本当のコアまで絞られているようだ。全体主義の下で弾圧された前衛画家の晩年を描きつつ、ケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』同様に語りは平易で、ひたすら筆致が強い。
大局やシステムに迎合せず、信念を貫くこと。これはワイダが繰り返してきた主題であり、ここから『夜の終りに』(筆者の偏愛作)辺りのモダニズムまでが作風のレンジであったように思う。その意味では“同じうた”を生涯歌い続けたタイプだ。滅び行く画家の姿に『灰とダイヤモンド』のマチェクが重なる。ワイダの映画=芸術は、徹頭徹尾「抵抗」であり個的な「運動」だった。