The NET 網に囚われた男 (2016):映画短評
The NET 網に囚われた男 (2016)ライター2人の平均評価: 4.5
正攻法のキム・ギドク
ギドクと言えば観る者の神経に障るような、アクセル全開の暴力&性描写がウリ。
だが今回は、ギドク基準では抑えめ。
脚本を手がけた『レッド・ファミリー』でも南北分断をテーマに描いていたが、
ユーモアで包んでいたのに対してこちらは漁師がうっかり国境超えという設定以外は全編シリアス。
若干物足りなくもあるが、
実際に行われているであろうスパイ嫌疑者への容赦ない取調を赤裸々に暴いてしまう図太さ。
どちらかを糾弾するのではなく、
統一を阻む憎悪や偏向、猜疑心といった人間の深い感情に迫っているところが、この監督の信頼たる部分である。
イ・ウヌも役目をしっかり。そこはファンの期待を裏切らないだろう。
魚を獲る男、受取国不明
「性愛」から「政治」モードへ――。水上の舟という『魚と寝る女』『弓』等でおなじみなギドクの原型的イメージを、南北分断の主題へと移行。『プンサンケ』『レッド・ファミリー』(共に脚本・製作)に続き三段跳びで頂点に到達した。北朝鮮の名もなく貧しく、だが家族想いで愛国者の男が悪夢的な運命に翻弄される。
某伝説的クイズ番組のイグアス罰ゲームを彷彿させる(笑)、「うっかり」の境界線越えが事態の起点。悲痛な劇だが底流するのはブラックコメディの感触。両国家間の宙吊り状態から個の尊厳へとフォーカスしていくが、主人公だけでなく善意の青年も鬼畜の取調官も己の気持ちと信念を貫く。この鋭角性がギドクならではの味だ。