スイス・アーミー・マン (2016):映画短評
スイス・アーミー・マン (2016)ライター4人の平均評価: 4
不思議だが切ない、ヘンだが面白い!
最初は不思議な映画という印象を受けたが、あとからどんどんシミてくる。これは独特のファンタジー性からくるものだろう。
D・ラドクリフ演じる死体は中盤くらいまでは主人公のイマジナリー・フレンドのかと思っていたが、ヒネリが加えられて、驚きの結末へ。世間との断絶を感じている青年の心情を投影したファンタジーと受け止めれば、そのラストは叙情を伴って響いてくる。
スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーが出てきたときに覚えたような、“ヘンだが面白い”感覚。彼らと同じくCMやPVで名を上げた監督のダニエルズは、その次世代バージョンと言えるだろう。ラドクリフが放屁キャラに恐れをなさなかったのも納得。
死体と遊ぶなポール・ダノ
『バーニーズ あぶない!?ウィークエンド』のようなベタなコメディかと思いきや、MV出身の監督コンビだけあって、スパイク・ジョーンズ&ミシェル・ゴンドリーの影響強し。そのため、初期設定ありきで、ハマらないとかなりキツい。無人島生活で、スイス・アーミー・ナイフばりな便利アイテムと化すダニエル・ラドクリフ演じる死体は、確かに面白いが、彼の怪演もポール・ダノによる受けの芝居ありきで引き立つのが分かる。そんな2人が終始イチャイチャし、明らかに腐女子向けな描写もあるなど、応援上映などで、カルト化しそうな気もするが、やはり脚本の弱さが目立つ。メアリー・エリザベス・ウィンステッドのキャスティングに★おまけ。
祝祭的な音楽が別世界に飛ばしてくれる
笑えるだけでなく、切なく、美しい。物語だけでなく、物語に寄り添う音楽がすばらしい。無人島で暮らす男が流れ着いた死体と友人になり、2人で森の中をさまよい歩くが、音楽はその"森の中に存在する音"と"身体から発せられる音"のみで構成。打楽器類と人の声だけが使われ、主演の2俳優も声を提供。祝祭的天国的かつ土着的な音楽が、別世界に飛ばしてくれる。音楽を担当したのは、米ジョージア州アトランタ出身なのにマンチェスターのバンドが好きでバンド名を決めた"マンチェスター・オーケストラ"のメンバー2人。監督はこのバンドやフォスター・ザ・ピープル、パッション・ピットなどの音楽クリップの監督コンビ、ダニエルズだ。
人生に絶望した若者と人生を忘れた死体の奇想天外な大冒険
ダニエル・ラドクリフが死体を演じることでも話題の本作。これがですね、奇想天外にもほどがある前代未聞の大傑作なのだ。なにしろ、冒頭から死体のおなら=腐敗ガスの噴射圧力で無人島から脱出しちゃうんだもんね(笑)。お尻をむき出しにしたラドクリフ君の死体にまたがり、颯爽と大海原を駆け抜けていくポール・ダノ。まさに大冒険の幕開けだ。
人生に絶望した若者と人生を忘れた死体の奇妙な友情物語。シュールでブラックな笑いを散りばめながら、生きるとは何ぞや?を問いかける脚本は素晴らしく秀逸。言葉を喋り始める死体が、果たして主人公の妄想なのかどうか、最後までハッキリとさせないところもいい。