禅と骨 (2016):映画短評
禅と骨 (2016)ライター3人の平均評価: 4
人は迷う。禅僧も迷う。
巻き込まれた人は勘弁!だろうが、これは禅僧ヘンリ・ミトワが関係者に与えた修行では?
劇映画製作に挑むミトワにカメラを回し始めたものの劇映画は頓挫。ミトワも本作に非協力的となる。そして死。
その経緯も曝け出し、8年も七転八倒した末に生まれた怪作だ。
まぁ、一筋縄ではいかない人だ。
家系図にこだわる一方で家庭を顧みず。
特に亡母への想いは複雑のようで、愛を語りつつ、困窮を訴える手紙に応えていなかった事実も判明する。
作家・井上光晴を追ったら、全く異なる人生が浮かび上がった原一男監督『全身小説家』をも彷彿とさせるスリリングさ。
だがこれこそ、一人の人間を深く掘り下げるドキュメンタリーの醍醐味なのだ。
禅とはとても懐が深いもの、と実感
禅僧の物語ではあるけれど、主人公ヘンリ・ミトワ氏の人生が達観や悟りとは別次元なのがとても面白い。言い方は悪いが、ちょっと生臭い感じすらあるのだ。が、老境に入ってから映画作りに情熱を燃やし、枯れることなく生きた氏は本当にパワフルだ。ドキュメンタリー撮影中でも監督と喧嘩するあたりは正直な人だし、監督が彼の欠点をもカメラに収めたことで氏の人間性がより深く伝わってきた。氏と家族との関係もかなり突っ込んでいて、展開されるリアルな人間ドラマに「その気持ち、なんとなくわかる」となった。波乱万丈に生きた氏の人生を見て、禅とはとても懐が深いものなのだなと実感しました。
激動の昭和を駆け抜けた希代の変人に迫る異色ドキュメンタリー
『ヨコハマメリー』の中村高寛監督、11年ぶりの劇場用ドキュメンタリーは、京都・天龍寺の住職だった日系アメリカ人、ヘンリ・ミトワが題材だ。
エキセントリックな人物の波乱万丈な生涯を紐解くことで、昭和史を違った角度から見つめ直すという趣向は前作同様だが、今回は生前の本人や残された家族のインタビューに加え、ウエンツ瑛士ら役者を使った再現ドラマとアニメを織り交ぜ、なんとも独創的かつポップな映画に仕上がっている。
戦争の暗い歴史に翻弄されたヘンリだが、一方で母を悲しませ、妻を泣かせ、子供たちを呆れさせた天性の自由人。その破天荒ぶりに苦笑いしつつも、心の赴くまま駆け抜けた人生にある種の憧憬を覚える。