悪魔祓い、聖なる儀式 (2016)：映画短評

　悪魔祓いの最前線に密着したイタリア産ドキュメンタリー。古い映画ファンなら「やらせ映像満載のモンド映画か？」なんて勘違いしそうだが、しかしこれは、そのような類いのショッキュメンタリーとは一線を画す極めて真面目な作品だ。
　確かに衝撃的な場面は少なくない。儀式の最中に突然、白目をむいて暴言を吐き始める少女。悪魔の言葉を口走りながら床をのたうち回る中年女性。とても21世紀の光景だとは思えない。
　しかし、そこには貧困やテロなどの社会不安に押しつぶされ、悪魔祓いに救いを求めるところまで追い詰められた庶民の悲痛な姿が浮かぶ。近年、悪魔祓いの相談件数はうなぎ上りだという。ある種の現代病なのかもしれない。

『ラスト・エクソシズム』（10年）や『デビル・インサイド』（12年）といったフェイク・ドキュメンタリーの悪魔祓い映画は既出済みだが、本作はなんとヴァチカンの本物の現場に初めてカメラを持ち込んだというドキュメンタリーである。その視座からして「ホラー」には属しない。あえてカテゴライズするなら「社会派」と言うしかない。

ここに映し出されているのは生き難さや心の不安に苛まれ、神父のもとを訪れる現代人たちの姿である。彼らが原因を「悪魔」に求めている点も含めて、全くリアルな社会問題の縮図なのだ。宗教や超越性をなぜ人間は必要とするのか、というアングルで見ても面白いし、映っている光景がとにかく興味深い。