泣き虫しょったんの奇跡 (2018):映画短評
泣き虫しょったんの奇跡 (2018)ライター2人の平均評価: 4
静かで力強いが、インパクトには欠ける
『青い春』から16年、松田龍平との三度目のコラボであり、実際に棋士奨励会に在籍していた豊田利晃が挑む、将棋界の奇跡。どれだけエッジの効いた熱い作品になるかと思いきや、主人公の少年時代からしっかり描いた、豊田作品にしては、かなり万人向けな作りに驚き。小学校教諭を演じる松たか子から始まる同窓会的キャスティングなど、みんなオトナになったと解釈するか、同じ敗者を描いた『火花』の脚色を手掛けた影響と取るか。しかも、ドラマチックな逆転劇に関わらず、比較的淡々と描いていることもあり、『聖の青春』『3月のライオン』に続く、染谷将太・棋士三部作として観ても、インパクトの弱さは否めない。
「負け」を認める者の心情が胸に迫る
将棋は一方が“負けました”と認めることで決着がつく競技。本作がクローズアップするのは、そんな敗者の顔だ。
対局場面では「負けました」と口にする敗者の表情を確実にとらえ、その心情をにじませる。とりわけ主人公のその瞬間は、気持ちが伝わってくるだけに切ない。さらに彼に負けた者たちの情も積み重なり、ドラマは重みを増す。負けを認めるとは、どういうことか? その意味を考えさせずにおかない。
人は誰でも“負ける”。しかし負けてばかりではいられない。それを理解する作り手、豊田利晃監督の『青い春』からの、ひとつの到達点。監督の盟友、松田龍平の、一途な情熱を発する熱演も素晴らしい。必見。