BPM ビート・パー・ミニット (2017):映画短評
BPM ビート・パー・ミニット (2017)ライター3人の平均評価: 4
迷惑をかけなければ無関心な社会は変わらない
‘90年代初頭のパリを舞台に、エイズの啓蒙活動を行う実在の市民団体ACT UPの闘いと苦難、メンバーたちの愛と友情を描いたカンヌ映画祭グランプリ受賞作である。
主人公たちのデモ行為はかなり過激だ。製薬会社へ乱入して血糊の入ったボールを投げつけ、高校の教室へ押しかけてコンドームを配る。ほとんど迷惑行為である。しかし、そうでもしなければ無関心な一般人は耳を傾けないし、政府や製薬会社も対策に乗り出さない。迷惑をかけなければ何も変わらないのだ。
映画作品としては正直、尺が長すぎて散漫になりがちなことは否めない。しかし、ここで描かれる革命精神と啓蒙精神は、今の世の中にも必要とされるものだろう。
大切なもののために闘う、本能が刺激されていく
1990年代初頭には『野性の夜に』、『ロングタイム・コンパニオン』など数々の映画が作られ、著名人も早逝するなど、HIV/エイズの衝撃は世に広く伝えられた。今作はそのシリアスな状況を久々に、そして徹底的に生々しく甦らせ、改めて深刻さが背筋を凍らせる。メインキャラクターが病状を進行させつつ、それでも愛を求める姿には涙を禁じ得ない。
アクティビスト団体「ACT UP」の行動は常軌を逸した過激さも伴うが、その裏には、ひとりの人間の命が何よりも大切だという意志が貫かれ、むしろ清々しい。ドキュメンタリーのような作りで前半はやや入り込みづらいが、中盤からは作品の「うねり」に飲み込まれるような感覚を味わえる。
多様化する「パワー・トゥ・ザ・ピープル」の始まり
当然想い出すのは、シリル・コラールの『野性の夜に』(92年)だ。あの伝説的な映画=鮮烈な生の記録と同時期に活動団体ACT UPのメンバーだったロバン・カンピヨ監督の実体験を再構築したもの。これは青春回顧、ではあっても懐古ではない。若さゆえの暴走も含め、沸騰する怒りと愛のエネルギーを現在進行形で「いま」にぶつける試みだ。
やはり近い時期の『フィラデルフィア』(93年)が示すように、当時HIV/エイズ問題はセクシュアリティへの偏見がセットだった。グザヴィエ・ドランはLGBTについて「90年代は鉄のシャッターが上がった時代」だったと発言しているが、その闘争の原点を再確認する一本とも言えるだろう。