Vision (2018):映画短評
Vision (2018)ライター3人の平均評価: 3
「真実を見つけた者を疑え」という言葉が脳裏をよぎる
千年に一度しか現れない幻の薬草とは、人を精神的な高みへと至らせる聖なる存在なのだろう。フランス人ジュリエット・ビノシュを通して描かれる奈良吉野の大自然は美しいが、表現は紋切り型でエキゾチズムの典型。テーマは荘厳だが、神的な視点はスピリチュアルよりも傲岸不遜へと向かい、ストーリーは観念的すぎる。難解なのではない。思考の浅薄さが痛々しいのだ。例えばテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』には真実へにじり寄ろうとする切実さが滲み出ていたが、本作には怪しげな教祖が信者に教えを説くような空気が漂う。「真実を探している者を信じよ。真実を見つけた者を疑え」というアンドレ・ジッドの言葉が脳裏をよぎった。
河瀬監督らしさを味わえる作品ではあるのだけれど…
奥深い奈良の森を舞台に、ビジョンと呼ばれる伝説の薬草を巡る人々の不思議な出会いを通して、受け継がれていく命の物語が描かれる。故郷の奈良を題材にした宗教的なテーマ、いくぶん難解なストーリーを含め、久しぶりに河瀬監督らしい作品を見たという印象だが、しかし『萌の朱雀』や『殯の森』のような感動を覚えるには至らなかった。
奈良の自然を捉えた神秘的な映像美に圧倒され、母なる大地の息吹を感じさせるサウンドデザインに心癒される。しかし、例えば夏木マリや森山未來が森の中で突然、恍惚の表情を浮かべながら踊りだすなど、観念的な演出やメタファーにどこか使い古された陳腐さが目立つことは否めない。
河瀬監督版、“踊る”2001年宇宙の旅
森の巨木に近づいた者は、いつの間にか我を忘れて、踊る、踊る……。その光景は『2001年宇宙の旅』のモノリスのまわりでうごめく類人猿のようで、生と死の概念や時空も超えた、何か生命の本能を表すようだった。そんな神秘的な解釈もすんなりでき、河瀬直美監督作品としては個人的には入りやすい作品だった。
何よりダンスシーンの撮り方や編集が鮮やかで、夏木マリ、ジュリエット・ビノシュ、森山未來の三者三様の肉体表現がライブ感覚で伝わってくる。田中泯にもっと踊ってほしい気がしたが、ダンスムービーとしても出色。奈良・吉野の美しい自然をインサートするタイミングが絶妙で、ストーリーを追わなくても陶酔感が襲ってくる。