パンク侍、斬られて候 (2018):映画短評
パンク侍、斬られて候 (2018)ライター5人の平均評価: 2.2
「壮大な楽屋落ち」感は否めず
私利私欲に駆られた権力がありもしない外来の脅威を煽り、その“病(やまい)”に感染した一般大衆がやがてカルト集団化して暴走、誰も手に負えなくなってしまう。まさに今の日本社会の現実を投影し、その行く末を予言するような内容に思わずニンマリするが、しかし作品全体としては「壮大な楽屋落ち」感が否めない。
セリフや衣装などが時代考証を完全に無視している点は別に構わないだろう。これは時代劇の姿を借りたナンセンス・コメディである。しかし、その悪ノリぶりは作り手ばかりが面白がっているようにしか思えず、物語がヒートアップするに従ってこちらはどんどんと興覚めしてしまう。
爆裂監督の心酔者たちが、狂い咲き踊り狂う大暴動に唖然呆然
腐りきった体制がフェイクで仕掛けたカルト教団・腹ふり党の奇妙な腹踊りが、やがて民衆を巻き込んでガチに変わり、体制を襲う。VFXも駆使される大暴動。よくぞ顔を揃えた役者陣が、伝説の爆裂監督の下、信者のように狂い咲き、踊り狂う。だが狂気はこちらに伝染せず、マッドマックス的なグルーヴ感に至らない。あるサプライズを優先した過剰なナレーションが、観る者を客観に追いやる面もあるが、撮影現場では異様だったはずのテンションが、スクリーンを介すと、ただ滑稽さに回収されてしまう。リスクヘッジなき1社製作を敢行したエイベックス=dTVと、325館も開けた東映では、この夏、腹踊りに興ずる人々が増える予感がする。
蘇える『GOJOE』
豪華キャストによる奇想天外なSF時代劇であり、130分を超える上映時間。ある意味、18年に蘇った『五条霊戦記』と言ってもいいだろう。18年経っても、まったく変わらない精神はパンクだが、この尺の長さはパンクと言い難い。そして、今回もプロデューサーら、周囲の石井岳龍監督に対するリスペクトが強すぎるあまり、いろんなものが崩壊。頭から読めるオチはさておき、現場で楽しいはずのキャストのノリも伝わらず、ライブ盤で良かったんじゃないかと思える「アナーキー・イン・ザ・U.K.」も虚しく聴こえる。ただ、『五条』ショック未経験者や、ここ数年の生ヌルい日本映画しか知らない世代のアンテナには響く要素があることは確か。
パンクとは、生ぬるい体制への批判である
冒頭から人物の心情どころか、映像になっている状況までを、延々とナレーションで説明する。最後にその意図は伝わるのだが、最近の日本映画で目立つ悪しきスタイルを踏襲しているようで、パンクの精神から程遠い感覚でがっくり。笑わせるシーンでも過剰なナレーションがかぶさり、一見、常識を破壊しているようで、その手法は映画のテンポを停滞させていく。
文字で書かれる小説でパンクな表現が、映像にすると微妙な温度となるのは仕方ないとして、せめて物語に核心があれば……。作品に入り込んで痛快なノリに身を任せられる人もいるだろうが、最後まで忍耐を強いられる人も確実にいると思う。俳優たちが頑張っているだけに、本当に残念。
パンクの衝動と熱、そして爆笑の坩堝に巻き込まれる
「アナーキー・イン・ザ・UK」を聞くと無条件に高揚する、という症状をお持ちのあなたは必見。パンクの持つ衝動、熱、カオス、それだけではなく、イイ加減さ、トホホな感じ、実はカッコイイだけのもんじゃないところまでをたっぷり描いてくれる、これぞパンク映画。しかも爆笑できる。この笑いには、町田康の原作小説の文章をそのまま登場人物のセリフにするという演出の貢献度大。映画は、その笑いも、俳優全員による濃いキャラ怪演競争をも取り込んで巨大な坩堝と化し、大量の熱を放射してくる。監督は「爆裂都市 BURST CITY」の石井聰亙、現・石井岳龍。この方向の新作がもっと見たくなる。