オーケストラ・クラス (2017):映画短評
オーケストラ・クラス (2017)ライター3人の平均評価: 3.3
音楽を奏でることの悦びが貧しい子供たちに未来への希望を与える
プロの音楽家として行き詰った中年バイオリニストが、多様な人種の集まる貧困地区の小学校の音楽講師となり、それぞれに複雑な問題を抱えた移民の子供らに音楽を教えるうち、自らも忘れかけていた音楽に対する純粋な愛情を取り戻していく。
音楽を通して貧しい子供たちに未来への希望を与えるというテーマを含め、ブラジル映画『ストリート・オーケストラ』とかなり酷似したフランス映画。どちらも実在する音楽教育プロジェクトが元ネタになっている。それほどまでに、子供たちの貧困を取り巻く状況は世界共通の問題なのだろう。ストーリーは予定調和だが、丁寧かつ真実味のある人間描写のおかげもあって素直に感動できる作品だ。
芸術はやはり人生を豊かにしてくれると実感
子供オーケストラを指導する立場になった中年バイオリニストと子供の物語、と聞くと展開は想像できてしまうし、意外性はない。しかし、舞台を経済的に恵まれ得ない移民が多い地域にしたことで物語に深みが出ている。特に軸となるのが父親を知らない移民少年で、彼の悲しさから国を出なければならない移民の状況が見え隠れする。また大成できないまま音楽家人生に固執する男性が音楽の魅力に徐々に目覚める子供と接することで自身の生き方を見直す点もお約束とはいえ感動ポイント。子役の自然な演技も素晴らしい。「音楽、いいね」だけで終わらせない盛り上げ方は監督自身が移民だからのようで、登場人物すべてにリアリティがある。
教師と子供たちが「喜び」に近づいていく
壮年のヴァイオリニストが、コンサートで演奏しても喜びがなくなったと言って演奏活動から去り、それとは別のところで喜びを得ようとする。そういう「喜び」について描く作品。バイオリニストが子供たちに楽器演奏を教える話ではあり、教師と問題児たちのあれこれや、問題が起きて結束するという展開は定石通りだが、子供たちの楽器演奏技術が上達していく話ではなく、子供たちが楽器を演奏することで無意識に誇らしい表情になっていく、そんな物語になっている。教師も子供たちも、映画の中ではまだ「喜び」を手に入れるには至っていないかもしれないが、確実にそれに近づいている。そういう「喜び」がスクリーンの上に映し出される。