愛しのアイリーン (2018):映画短評
愛しのアイリーン (2018)ライター3人の平均評価: 4.7
『ヒメアノ~ル』にも匹敵するインパクトの衝撃作
原作コミックの予備知識など殆どないままの鑑賞。ポップなタイトルやコミカルな導入部分から、国際結婚の異文化交流を描いたほのぼのコメディを勝手に想像していたら、とてつもなく強烈なパンチを食らってしまった。深刻な嫁不足に悩む農村地帯。40代で童貞の中年男が、フィリピンから花嫁を連れて帰ったことを発端に、閉鎖的な田舎社会に脈々と息づく古い因習や差別が頭をもたげ、美しい国ニッポンの醜い裏側が赤裸々に暴かれていく。一途ゆえに狂気と化す恋愛や家族愛の怖さも強烈。セックス&バイオレンスたっぷりの凄まじいテンションで、これでもかと人間の嫌な部分をえぐり出す容赦のなさは、『ヒメアノ~ル』の吉田監督の真骨頂だ。
ドS監督とドM俳優が起こした“奇跡”
熊のような童貞男を演じる安田顕に、まるで鬼婆な母を演じる木野花など、主要キャラのほとんどは、原作キャラに似ていない。とはいえ、吉田恵輔監督の尋常じゃない原作へのリスペクトに、そこに賛同した役者が魂からキャラに繋がることで、知らぬ間に、そのキャラにしか見えなくなる。これぞ、コミック原作映画化の理想形だ。確かに、設定や作風的に好き嫌いはあるだろうし、評価的にも賛否分かれるだろう。とはいえ、映画監督が生涯に1本撮れるかどうか分からない熱量だらけの137分。と同時に、日本映画界屈指のドS監督と脱ぎたがりのドM俳優との出会いが実現させた“奇跡”である!
凄いものを目撃した(後半)
前半は正直、偉大な原作に引き摺られすぎかと思った。日本/アジアの関係性も20数年経てばもっと上書きされるべきだと。しかし!「愛あるセックス」以降の地獄巡りは痺れたよ。役者は徹底酷使され、とりわけ猟銃片手に“雪降るテキサス”を徘徊するような差別主義者かつ毒親に扮した木野花は「型」を大きく逸脱する鬼の壮絶!!
とことんいくぞ!と決めた時の吉田恵輔は最高だ。自分も地獄に堕ちながら、「いい話」に傾かず修羅場を常時98%以上の出力で描き切るパワー。この真骨頂を感じたのは『さんかく』以来。うわ、今村昌平だよと慄いた箇所の他、もはや人間の手を離れたカオスと無常はそれ自体が極めて「新井英樹的」だとも思う。