22年目の記憶 (2014):映画短評
22年目の記憶 (2014)ライター2人の平均評価: 3
激動の朝鮮半島近代史に個人の軌跡を重ねる
1972年に発表された朝鮮半島の南北共同声明。その陰で時代に翻弄された名もなき親子の姿が描かれる。史実を背景にしたフィクションだ。主人公は貧しい無名俳優ソングン。国家的プロジェクトで北の指導者・金日成の代役を演じるチャンスを得た彼だが、しかしそれも実現しないまま頓挫する。どうして自分は、何をやっても上手くいかないのか。心優しき父親の深い苦悩は、いつしか彼を独裁者役に囚われた偏屈オヤジへと変える。後半はそんな老父に振り回される息子テシクの姿を通じ、「1度でいいから息子に自分の立派な姿を見せたい」というソングンの切なる想いに迫る。激動の近代史に個人の軌跡を重ね合わせた脚本は巧みだ。
金日成に似てないなんて二の次の話でした
1972年の南北首脳会談に備えてKCIAが金日成もどきを作り上げるという前提がまず興味深く、彼に主体思想まで叩き込むあたりのエクストリームさもさもありなん。ソル・ギョングが金日成?と懐疑的に見始めたが、大根役者がどんどんエキセントリックに変貌する過程で憑依役者の真髄を満喫した。しかも認知症になってなお、初主演にこだわる役者魂に感涙。そんな役者バカ一代の父親を持った息子テシクの哀切はさぞかしと思うし、22年も溜め込んだ父親への複雑な思いを徐々に吐き出すP・ヘイルのニュアンス溢れる演技も素晴らしい。演技派役者の丁々発止のやりとり、脇を固めた曲者役者の巧妙な演技設計にしびれっぱなし。