幸福路のチー (2017):映画短評
幸福路のチー (2017)ライター2人の平均評価: 4.5
改めて「幸福」の所在を見つめ直す
Netflix『タイガーテール ある家族の記憶』ではおそらく1970年辺り――フェイ・ダナウェイやオーティス・レディング(『俺たちに明日はない』が67年、「ドック・オブ・ベイ」が68年)に憧れた世代の台湾の男性が、ある人生の選択をしてNYの下町へ渡る。これは移民二世である監督の両親がモデルの話らしいが、『幸福路』は監督自身が投影された75年生のチーが9.11の後でNYに移住する。
世代違いで似た構図の物語が出てくる必然が興味深い。台湾現代史を背景とした『ちびまる子ちゃん』×『ペルセポリス』の傑作だが、『フェアウェル』『アメリカン・ファクトリー』等と繋がる“アメリカの夢”の再検証の側面もあり。
硬派なメッセージが伝わる台湾版ちびまる子ちゃん
ここ数年のブームで、とても親しみのある台湾だが、実は民主化されたのは1996年。70〜80年代に生まれた世代は激動の歴史の影響を受けていて、ソン・シン監督もそのひとり。祖母の葬儀で故郷の街に戻った主人公チーが振り返る人生は台湾の歴史と重なり、優しい従兄弟の視力低下や少数民族への差別意識など負の歴史をもきちんと描いている点に監督のまっすぐな気持ちを感じた。またヒロインや親友ベティの人生選択に女の強さをにじませていて、アラサー&アラフォー女性なら思わずガッルポーズする瞬間も少なくないはず。絵柄は可愛いが、伝わってくるメッセージは硬派だ。