羊とオオカミの恋と殺人 (2019):映画短評
羊とオオカミの恋と殺人 (2019)ライター2人の平均評価: 4
男の子よ殺人鬼と踊れ
これは凄い。朝倉加葉子監督は本作で「ホラー・イニシエーション」のフォームを完成させたかもしれない。『女の子よ死体と踊れ』(15年)でクソな現実に晒されていたのはゆるめるモ!の面々だが、今回は無職の男子(杉野遙亮)。ヴィトゲンシュタイン全集の隣に空いた壁の穴から始まる女子大生兼殺人鬼との恋を通し、生の実感を掴んでいくボーイ・ミーツ・ガールである。
PG12という枠のせいか、主人公は大学生相当ながらジュブナイル物のような清廉さがある。カッターナイフを手にした福原遥のスプラッターダンスは素晴らしく美しいが、個人的には前半のワンシーン、彼女の「走る感じ」が見事にレザーフェイス的だったのがツボだった。
絶妙なバランスのキラキラ・ホラー
『サマー・オブ・‘84』のコピーばりに、隣人が連続殺人鬼の話であるが、ルック的には“スプラッタ版『猟奇的な彼女』”であり、本来分かりあえない狩る者(肉食)と狩られる者(装飾)の恋という「BEASTARS」にも通じるテーマである。ホラーとラブコメのバランスが、とても難しいなか、そこは朝倉加葉子監督の本領発揮かつ新境地開拓。『映画 賭ケグルイ』でド肝を抜くサイコパス演技を魅せた福原遥が、不敵な笑みが怖いシリアルキラーを演じ、華麗なガン=カタならぬ“カッター=カタ”も披露。いつもと違うヘタレ野郎な杉野遥亮とのコンビネーションも相まって、絶妙なキラキラ・ホラーに仕上がっている。