お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~ (2018):映画短評
お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~ (2018)ライター2人の平均評価: 3.5
思わず「おふくろの味」が恋しくなる
手作りの総菜屋を経営する年老いた母親にいつまでも甘えているダメ息子が、母親の認知症をきっかけに忘れていた過去の記憶をたどり、やがて自慢料理のひとつひとつに込められた、家族に対する母親の深い愛情を知ることになる。食とは人間にとって生活の基本。そのレシピを書き記したお料理帖は、愛する子供たちを養うため懸命になって生きてきた、一人の平凡な母親の人生の軌跡そのものだ。その計り知れない重みに胸を揺さぶられ、思わず我がおふくろの味を恋しくなる。単なるお涙頂戴のいい話にしないピリ辛な語り口もいい。もちろん、劇中に登場する料理の数々もむちゃくちゃ美味しそう!韓国家庭料理の豊かさと奥深さを知ることが出来る。
愛情と思いやりが込もったエランの料理を食べてみたい
秋だと栗ご飯やキノコ汁、サンマの塩焼きなどなど。歳を重ねるに連れ、母親が旬の食材で作ってくれた季節感あふれる料理への感謝が増す。その気持ちを改めて噛みしめる物語だ。しかも総菜屋を営む主人公エランは醤油や味噌、麹から手作りし、医食同源を思わせる料理も登場。食べる人への愛情や思いやりが込もった料理の描写が素晴らしい。料理からエランの人となりや情の深さが伝わる仕掛けだ。彼女の身に起きた出来事が息子と娘に影響を及ぼす展開に新鮮味はないけれど、説得力はある。「忘れたいことは忘れないのに、忘れてはいけないことを思い出せない」もどかしさは想像するのみだが、やがて実感する日に備えたいと自戒した。