キャッツ (2019):映画短評
キャッツ (2019)ライター5人の平均評価: 2.2
「ニャンだこれ」モーメントがたっぷり
猫のCGスーツを着た人間の妙な艶かしさはもう散々言われているとおり。だがヘンテコ要素はそれだけではない。人間が演じるゴキブリ軍団がケーキに向けて突撃してくるシーンはその代表。そのゴキブリを猫が食べたがるというのはなんともシュール。ここで観客にどう反応してほしかったのか、作り手の意図が気になる。85歳の名女優ジュディ・デンチ様が(もちろん猫の格好で)脇を下にして寝そべり、微笑みながら片脚を高く上げるのもまたギョッとする。さらに彼女は映画の最後で「猫は犬ではない」という貴重なメッセージを伝えてくださるのだ。そういう映画とわかって見るカルト的楽しみ方もあるかも。
2020年ラジー賞最有力候補かもだけど、嫌いじゃない。
予告編公開段階であがったディスの声が公開直前にマックスになり、逆に期待してしまう。批判された欠点に同意する部分も多いが、私は嫌いじゃない。ヒロイン役のF・ヘイワードやレ・ツインズらの力強く美しいダンス、マッケラン様のコミック・リリーフは楽しめる。なによりもJ・ハドソンの『メモリー』熱唱は涙モノで、彼女自身も鼻水までたらす熱演を披露する。また『メモリー』の返歌でもある新曲『ビューティフル・ゴースト』も作品にマッチしている。マキャビティを演じたせいでI・エルバ兄貴が007を演じる可能性が消えた気もするが、みんなでCross Paws!
絶対にやってはいけない映画化
“ミュージカルの金字塔”ながら、これまで映画化されなかった理由――それは間違いなく映画向きでないから! そもそも、T・Sエリオットの詩集なのだから、ドラマ性が薄いのは当然。“自己アピール・ミュージカル”繋がりでもある『コーラスライン』のような“サプライズ”も起こらない。そんなこれまで避けてきた案件を、いくら『レ・ミゼラブル』を成功させたトム・フーパーが監督しようが、ヌカにクギ状態。問題視されているヴィジュアル面は、確かに妙に艶めかしいが、これだけのキャストを揃えながら、とにかく退屈な方が問題。ロイド=ウェバーの楽曲を劇場で聴く、舞台版と比較したい人以外はおススメできない。
それでも…吹替版の「メモリー」に心を鷲掴みされた
まず言っておきたいのは、ここまで実写化困難な作品はないってこと。「非日常」と受け入れやすい舞台と違い、映画ではどう転んでも「リアル猫人間」と化す。素直に違和感を味わい、その違和感も徐々に薄まるので、舞台版の熱烈ファンはどう映像になったのか確認するだけで楽しいはず。
最大の問題はロイヤルバレエのトップなど踊れる面々を起用しつつ、尻尾や耳の動きがCGなので最高のテクニックまで「作りもの」に見えてしまうこと。ダンスシーンの編集やアングルもどこかお行儀が良く、ティム・バートンあたりの過剰センスが必要だったかも。
吹替版の仕上がりは一級品。グリザベラの奇跡レベルの“歌唱演技”には文字どおり昇天する。
いろんな意味で伝説となるであろう怪作
いやあ、これは噂に違わぬ怪作である。ストーリーや設定の改変が多いこともあって、恐らく舞台版のファンには猛反発を食らうと思われるが、しかしバッドテイストなカルト映画として見れば最高に美味しい(?)珍品であろう。予告編動画でネットを騒然とさせた、妙に生々しいCGキャッツもさることながら、擬人化されたゴキブリさんの大行列には驚いた。しかも、それを手づかみでむしゃむしゃと食べてしまう。人間の顔をしたネコさんたちがね。これを「うわっ!キモっ!」と楽しめるか否かが、言うなれば本作の好き嫌いを大きく分けるポイントかもしれない。いい意味でも悪い意味でも、伝説的な一本となるはず。