“樹木希林”を生きる (2019):映画短評
“樹木希林”を生きる (2019)ライター2人の平均評価: 2.5
樹木希林が”樹木希林”であり続けたワケ
密着取材は被写体と取材する側の格闘だ。どんな一面を引き出すか。原一男監督や森達也監督のように”仕掛け”も用いて本音を引き出すタイプもいる。
樹木希林はこれまでも取材する側の心理を巧みに見抜き、それを楽しみ、逆に彼らを巻き込んで樹木希林という存在の血や肉としてきた。だから自分とタイマンを張る覚悟のない相手には容赦ない。放送版に加えられた未公開映像で、彼女の仕事に対する姿勢がより露わになる。これは特に映像関係の仕事に携わる人にとっては教訓となるに違いない作品。そして改めて希林さんの狡猾さも愛らしさもユーモアを持って引き出していた久世光彦、是枝裕和、安住紳一郎の手腕に敬服。
大森靖子×岩淵弘樹の『サマーセール』に似ている……!?
評判になったNHKスペシャルを未見だったので、この映画版が初見。意外にも怪作の類いの面白さだと思った。見所はむしろ迷走してからの後半。格の違う負け試合に挑んだ監督が「メソメソ」した男の子に徹した事で、稀代のプロ女優の凄みと怖さがはっきり表出されたのではないか。
リングに沈められても立ち上がり必死に食らいつく監督の粘りは素晴らしく、ラストなど驚くほど感動の名シーンをモノにしている。ただ不満を一点。そのわりに心情説明的なナレーションが多すぎないか。せっかく珠玉の光景を捉えているのに、なぜわざわざ小さな言葉や解釈で囲い込むのだろう。その瑕瑾から皮肉にも希林さんの破格のスケールがさらに際立つのだが。