スケアリーストーリーズ　怖い本 (2019)：映画短評

　ベトナム戦争が泥沼化を極めた1968年、アメリカのとある平和な田舎町。閉鎖的な地域社会で生きづらさを抱えたホラー作家志望の少女とその友人らが、廃墟となった豪邸で１冊の怪奇短編集を見つけたところ、次々と奇怪な現象に見舞われる。スティーブン・キングの『IT－イット－』前半を彷彿とさせるジュヴナイル・ホラー。原作はアルビン・シュワルツの児童向けホラー短編集だが、悲惨な運命を辿った少女の呪いを媒介とすることで、複数のエピソードを一つの物語の中へと落とし込む。混沌とした社会情勢を背景に、恐怖体験を通じて人生の厳しい現実と向き合う無垢な少女の成長譚は、児童書の映画化に相応しい瑞々しさを兼ね備える。

　デル・トロは監督をせず、プロデューサー専任だが、それでも彼ならではの恐怖奇譚のトレードマークは生きている。

　『IT／イット』のように負け犬の子どもたちを主人公に設定。暗闇のシーンでは陰影を強調。さらに単色の映像つくりと、随所に”らしさ”が。『ジェーン・ドゥの解剖』などを手がけてきたアンドレ・ウーヴレダル監督の抜擢には、新しい才能を見抜くデル・トロのセンスが感じられる。

　何より不気味で恐ろしいのは、クリーチャーのビジュアルだ。とりわけ、笑顔が気味悪い“青白い女”のインバクトは強烈。原作本の挿絵に忠実に再現されているが、それは原典への愛情の表われと言える。オタ的愛情が息づいた快作！

　いくつものエピソードが重なって「物語はどのようにして生まれるのか」「物語はどんな力を持っているのか」を描く大きなストーリーに集約されていくところに魅了される。そもそも原作となった短編集が実際の民話や都市伝説を採取したものなので、その映画化作が、生まれてしまった物語の持つ力について描くのは納得。原作の大ファンで本作の製作と原案に参加したギレルモ・デル・トロも、その力を意識したと発言している。
　さらに、デル・トロの趣味が一目瞭然なのはクリーチャーたちの造形。原作のイラストを踏まえているのに、まさにデル・トロの世界。彼の映画に登場する異形の者たち同様、コワくはあるがどこかキュートだ。

怖いシーンはあるけれども、すごく残酷だったりダークだったりするわけではなく、いい感じでキャーキャー言える。子供と一緒に見ても、全然大丈夫。クリーチャーは、恐ろしい中にもキャラが感じられて、いかにもギレルモ・デル・トロらしい。そこが今作の一番の見どころかも。ちょっと不運だなと思われるのは、これが「IT／イット〜」「ストレンジャー・シングス」大成功の後に出てしまったこと。男の子の中に女の子がひとりとか、いじめっ子の存在とか、とくに前半には共通する要素が多いのだ。ほかには「ウィンチェスターハウス　アメリカで最も呪われた屋敷」も思い出させる。あと数年早かったらよかったのかも。

ギレルモ・デル・トロ製作×子どもホラーということで、『ダーク・フェアリー』のテイストにも近い、「ほん怖」エピソードが連鎖していく。オムニバスではなく、『デスノート』風ギミックで、ホラーマニアのメガネ女子（半魚人フィギュアも収集！）の体験談にした脚色は成功しており、残酷・ゴア描写がない代わりに、「案山子のハロルド」「太った青白い女」など、造形しっかりクリーチャーが続々登場。いかにもデル・トロらしいトラウマ・ホラー愛を感じさせるなか、『ジェーン・ドゥの解剖』で絶妙なセンスを魅せたアンドレ・ウーヴレダル監督の容赦ない演出も見え隠れ。なんだかんだ、『学校の怪談』世代直撃の一本でもある。