生きちゃった (2020):映画短評
生きちゃった (2020)ライター2人の平均評価: 4.5
演じることでしか出ぬ「リアル」を超えた生々しさの爆弾
この純度の高さは何だ。ゴツゴツした言葉も、汗だくの真夏と雪降る真冬しかない苛酷な環境にも、全て石井裕也が託した意味と血肉が通う。ソリッドな凝縮体。破壊的に転がる負の連鎖の話。それがナタでぶった切るような殺気と共に灼熱の高温を湛え、マグマのごとく煮えたぎる。
物言わぬ日本人、と呼ばれる典型でもある厚久(仲野太賀)は、『映画 夜空~』のおしゃべりな主人公・慎二と表裏一体の人物像に思える。凶暴な生命力が裏目に出ていく奈津美(大島優子)は“剛”の石井ヒロインの究極形。ここに若葉竜也を加えた突撃隊のごときカルテットの壮絶な気迫。限界超えのラストシーンは、フィクションでしか到達し得ぬ魂の内蔵の露出だ!
たとえ親しい仲でも言わねば伝わらぬことは沢山ある
アジアの監督6人が「原点回帰」と「至上の愛」をテーマに映画を競作するというプロジェクトのもと、石井裕也監督が3日間で一気に脚本を書き上げたという渾身の一作。“愛している”を口に出して言えないがために、すれ違いもつれ合っていく夫婦や家族、友人同士の悲哀を描いていく。日本ではしばしば美徳とされる「不器用で寡黙な男」「身内同士の阿吽の呼吸」だが、しかしたとえ親しい仲でも言わねば伝わらないことは沢山ある。みんなが素顔に愛情を表現できれば、殺伐とした世の中も少しは変わるのではないか。そんなストレートなメッセージを感じさせる本作は、監督や演者の熱量がまた凄まじく、中でも大島優子の気迫には圧倒される。