タイラー・レイク -命の奪還- (2020):映画短評
タイラー・レイク -命の奪還- (2020)ライター5人の平均評価: 3.4
いまの「洋画劇場」がここにある
製作のルッソ兄弟をはじめ(ジョーは脚本も)『アベンジャーズ/エンドゲーム』へと至るMCU最重要ラインのチームによるNetflix作品だが、「久々に」との言葉を使いたくなる生っぽい本格ハードアクション。ランボー化したクリス・ヘムズワースがマイティ・ソーとはまた異なる方向で本領発揮し、1980年代によくあった傭兵活劇の見事なアップデートといった趣だ。
もうひとつの映画大国、インド勢(系)の協力もアツさに拍車を掛け、ラストはあらゆる意味で完璧。劇場公開のハリウッド超大作がデジタル・アトラクション化してきた一方、これほど「映画らしい映画」が配信作として流通する現在の位相についても色々考えさせられる。
ウルトラハードなバイオレンスの応酬は見応えあり!
インドの麻薬王の息子が隣国バングラディッシュのライバル組織に誘拐されたことから、クリス・ヘムズワース含む傭兵チームが少年の救出任務に当たるものの、敵に買収された現地の軍隊や警察がその行く手を阻み、さらには味方であるはずの依頼主にまで裏切られて窮地に陥る。絶体絶命の状況下で育まれる主人公と少年の疑似親子的な情愛を中心としたストーリーは、正直なところ既視感の連続で新鮮味に欠けることは否めないものの、しかしさすがにスタントマン出身の監督だけあって『ジョン・ウィック』ばりの超絶アクションは圧倒的に見応えあり。容赦のないウルトラハードなバイオレンスも満載で、約2時間を飽きることなく楽しませてくれる。
ボーナストラックでは終わらない
『マイティー・ソー』ノクリス・ヘムズワース主演、『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』から『インフィニティウォー』『エンドゲーム』まで手掛けたルッソ兄弟がプロデュースで、監督は『エンドゲーム』のスタントコーディネーターのサム・ハーグレイブというMCUファンならたまらない並び。MCUでは2TOPに隠れがちでしたが、クリス・ヘムズワースも本当に頼もしい“一枚看板”になりました。映画は終始緊迫感と近接戦闘から銃撃戦までありとあらゆるるバリエーションのアクションをこれでもかと詰め込み、最後まで飽きさせません。MCUのボーナストラックでは終わらない見応えの一品。
粗野で荒々しい肉弾アクションが見応えあり
体と体をぶつけ合う肉弾戦のアクションが、無骨なのがいい。この頃のアクション映画でよく見るようなコリオグラフィがきっちり決まる武術技系アクションとは違う、粗野で野蛮な殴り合い。そこにあるものは何でも使い、部屋の構造も利用する。痛みが激しいと、しばし動けなくなる。戦う男たちの間を、通行人が自転車で通り抜けたりもする。近所の家のTVの音や犬の鳴き声が聞こえる。そんな状況を長回しで撮るので臨場感が増大。スタントマン出身の監督サム・ハーグレイヴが本作でやりたかったのは、このアクション演出なのではないか。そんな格闘で汚れて傷を負いボロボロになっていく男の姿が、クリス・ヘムズワースによく似合う。
やはりクリヘム、最強説
クリス・ヘムズワースの「最強」ぶりが全開で発揮され、ソーに近いハマリ役か。冒頭、なぜか水中で瞑想するアクアマンのような謎行為に出るものの、傭兵として指令を下されてからは、王道の肉体派ヒーローとして役割を完徹。このタイラー、最大の武器は「瞬発力」。銃撃や肉弾戦も得意だが、敵の動向を予知した先手先手の応戦が、映画らしい段取りとはいえ豪快そのもの。
S・セロンの『アトミック・ブロンド』も脳裏に甦る、複雑な建物内で次々と出くわす敵との戦いに、カーチェイスも含めた10分にもおよぶワンカット(に見える)シークエンスは没入感が半端ない。ただ、バイオレンスの量と強烈さ、強引さは時節柄、素直に楽しめないかも。