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ジョーンの秘密 (2018):映画短評

ジョーンの秘密 (2018)

2020年8月7日公開 101分

ジョーンの秘密
(C) TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.6

相馬 学

天才ばばあが身をもって問う、国家間対立の無益

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 英国の天才が戦争や国際的対立の下で非国民とされるという点で『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』を連想。本作で興味深いのは、この天才が半世紀以上を経て罪に問われることだ。

 半世紀も経てば世の価値観は少なからず変化するものだが、それでも国は当時の罪を許さない。平和を望むことと、国益が必ずしも一致しない社会的な矛盾。そんなことを考えずにいられない重みのあるドラマ。

 J・デンチがこの"ばばあスパイ"を演じるとなればケチの付けようがないし、決して笑顔を見せないその演技は強烈な印象をあたえる。『イミテーション~』と同様、戦後の一個人の悲劇を通して戦争の無益さを伝える力作。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

東西冷戦時代の核開発競争を振り返るスパイ・ドラマ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 戦中・戦後における核開発競争の最中、「東西陣営のどちらか片方だけが核兵器を持つと再び大きな戦争が起きてしまう」と危惧し、世界のパワー・バランスを保って平和を維持するという使命感のもと、ソビエト側へ核開発の機密情報を流していたイギリス人女性の物語。実話を基にしているものの、実際はだいぶ脚色が施されている。監督はこれが22年ぶりの劇場用映画の演出となった英国演劇界の巨匠トレヴァー・ナン。いまひとつ作り手側が何を訴えたいのか見えてこないのは難点だが、しかし原爆の日が75年の節目を迎え、改めて核兵器廃絶の実現が望まれる昨今、過去を振り返るうえで見ておくべき作品とも言えるだろう。

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山縣みどり

編集がもっと練られていたらよかったのに

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

40年代にソ連に核開発の秘密を漏洩していた女スパイの真実をつまびらかにするというジョン・ル・カレの小説のような実話インスパイアもの。しかも主演はJ・デンチ様! 面白くないわけがないのだけれど、あれ? 逮捕された老女がMI5の質問に答える形なので、過去と現在を交錯させる構成は当然としても、時制チェンジが頻繁すぎる。なので40年代のジェーンが感じる緊張感や時代の不穏さがあっという間に薄れる結果となって残念。編集に難ありだ。デンチ様の若き日を演じるS・クックソンを監督が役不足と思っていたのか? ヒロインは悪役ではなく、スパイ行為を正当化する老女の頑なさの裏にある思いが切ない。

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猿渡 由紀

激動の時代を舞台にした女性目線のスパイ物

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

スパイ物と聞くとアクションたっぷりのマッチョ映画を想像しがちだが、今作は女性目線でメロドラマふう。激動の時代を舞台にしているところがまたドラマチックだ。まじめな女子学生が共産主義を信じる男性に恋をし、そこから思わぬ方へ導かれていく危うさ。相手が自分を本当に愛してくれているのかわからない、不安とフラストレーション。男たちが政治を操る中で、男勝りの頭脳をもつ彼女がたどりついた、ひとつの決断。そんな若き日のツケを払うことになった高齢の主人公を演じるのが、ジュディ・デンチ。出番こそそう多くないが、最後には、やはり彼女だったのは正解だと満足させる。

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森 直人

「彼女の世代」にとってのソ連

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『007』の“M”=J・デンチが実在したKGBの元スパイを演じたことで話題の一本。物理学者ジョーンの判断は極私的な恋愛模様と、冷戦時の東西均衡を目指す抑止力の論理が混濁しているのが面白いが、押さえるべきはソ連をめぐる国際評価の揺れや変動だろう。残忍な独裁者と知られるスターリンが、フルシチョフによる批判が起こるまで国外左派インテリの人気は高かったことが肝だ。

同じく英国とソ連、ナチス独の政治力学を背景とし、本作の前史に当たるのが『赤い闇 スターリンの冷たい大地』(8/14公開)だ。32~33年のホロドモール(大飢饉)の告発から、『動物農場』『1984』を記したG・オーウェルに繋がっていく。

この短評にはネタバレを含んでいます
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