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シチリアーノ 裏切りの美学 (2019):映画短評

シチリアーノ 裏切りの美学 (2019)

2020年8月28日公開 145分

シチリアーノ 裏切りの美学
(C) IBC MOVIE / KAVAC FILM / GULLANE ENTRETENIMIENTO / MATCH FACTORY PRODUCTIONS / ADVITAM (C) LiaPasqualino (C) IBC MOVIE / KAVAC FILM / GULLANE ENTRETENIMIENTO / MATCH FACTORY PRODUCTIONS / ADVITAM (C) Fabio Lovino

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

なかざわひでゆき

常人には理解し難いマフィアの醜悪な実態を暴く力作

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ベルトルッチ亡き後、新イタリア派世代最後の巨匠となったマルコ・ベロッキオの最新作は、ジョヴァンニ・ファルコーネ判事によるマフィア撲滅運動の重要なキーパーソンとなった大物マフィア、トマーゾ・ブシェッタを題材にした実録ドラマだ。麻薬抗争の果てに家族や友人を次々と惨殺され、コーザ・ノストラに幻滅したブシェッタは、沈黙の掟を破って司法当局への協力を決意。その長きに渡る裁判の模様を軸としながら、本作では“誇り高き男たち”とは名ばかりの醜悪なマフィアの実態を生々しく暴く。人命や良心を軽視し、組織の利益と権威への忠誠を尊ぶ裏社会の恐ろしいこと!老いを感じさせないベロッキオ監督の鬼気迫る演出にも感嘆する。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

マフィアの秘密結社ぶりがよくわかる

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

1984年に始まったマフィア大裁判に至った背景や人間関係がしっかり描かれていて、そのドラマティックさに驚く。パレルモ派vsコルネオーネ派、コーザ・ノストラや沈黙の掟といったマフィア用語(?)に詳しくなった。仲間の非情さに憤って当局の情報提供者となる主人公ブシェッタの視点で描かれていて、マフィアの残虐さが際立つ。判事を爆殺し、名付け子を嬉々として絞殺。怖すぎる。後半の裁判の様子がまた異常としか思えない状態で、ゾゾッ。檻に入れられた被告人集団が証言台に立つブシェッタを堂々と脅すわ、大声で悪態をつくわ。法治国家とは思えないし、判決が出た後の報復がさらに心配になった。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

前半と後半の温度差をどう捉えるか?

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

御年80歳、「スコセッシには負けられねぇ!」と言わんばかりのマルコ・ベロッキオ監督による、実録イタリア極道史。入り組んだ人間関係を把握するには、そこそこ予習が必要だが、キルカウント込みの血で血を洗う抗争劇に、濃厚なエロもある前半パートのパワフルさには、とにかく前のめり。しかも、随所にベロッキオらしい美学が見られたりもするが、主人公が原題通り“裏切者”と化した後半パートにかけての急激な温度差は、やや問題アリ。後方がマフィアの牢獄と化した状況はめちゃめちゃ面白いのに、肝心の判事との掛け合いが端折られるなど、法廷劇としての醍醐味は感じられず、結果カタルシスにも欠ける。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

ひとりの「ドン」 vs.マフィアたちの大審問会

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

海と太陽と血。ハードな裏社会に生きながら、ある高潔さを備えた自称・一兵卒のドン・マジーノが堕落した身内組織コーザ・ノストラを“裏切る”。権力にはまるで興味がないと嘯き、女と旅を愛する男の1980年からの20年史。切り口はスコセッシに近く、コッポラ『ゴッドファーザー』への目配せを窺わせつつ、硬質のリアリズムにバロックな幻想味を加えた生粋のイタリアンマナーで押し通す。

とりわけベロッキオ監督自身が「オペラ風」と称する後半の大裁判パートは圧巻。マフィアたちがガヤ芸人のように騒ぐ荒々しさは法廷劇の規範を刷新する。誰よりも「ユダ」のイメージに近いピッポ・カロの舌戦、どこまでも薄汚いゲスぶりも印象的だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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