人数の町 (2020):映画短評
人数の町 (2020)ライター4人の平均評価: 4.3
中盤までなら、★5つ
予算がかけられない日本映画界でも、アイデア次第で、ディストピアSFが撮ることはできるのか? そこに果敢に挑んだ意欲は評価したい。しかも、CMプランナー出身の監督らしい「人」と「数」をめぐる設定の斬新さには唸らされるうえ、「町」の住人になっても流されるだけの主人公と、中村倫也の飄々としたキャラがシンクロする面白さもあり、シニカルな社会派ドラマへと昇華されていく。だが、行方不明の妹探しに「町」にやってきたヒロインが登場するパートから失速し、やたら冗長に。既視感ある逃亡劇に至っては、チープさが悪い方向に働くなど、結果「「世にも奇妙な物語」なら許せるのに」と思わせてしまう111分である。
日本社会へ警鐘を鳴らすダークな寓話
そこは「人間」が「人数」としてカウントされる隔離された町。完全な管理下に置かれて自由は制限されるものの、しかし上からの指示通りにネットへ書き込みしたり別人のふりして選挙に投票したりすれば、最低限の衣食住と娯楽は保証される。面倒な社会のしがらみや生活の不安とも全くの無縁。これこそ我々が求める平和で安全な理想郷…なのか?勿論こんな町は実在などしないだろうが、しかし彼らのように社会の厳しい現実に疲れ果てて思考停止状態に陥り、自ら進んで個人の自由と権利を放棄してしまった日本人は秘かに増えているのかもしれない。これは民主主義の岐路に立たされた現在の日本社会へ警鐘を鳴らすダークな寓話だ。
「絶賛TIME」もやぶさかではない!
これは凄い。近いとすれば『わたしを離さないで』(付随して『約束のネバーランド』)、作風ではロイ・アンダーソンの“リビング・トリロジー”辺りが挙げられそうだが、核は民主主義と全体主義の転倒。オーウェル風の暗黒のディストピアならぬ、思考停止さえすれば快適に暮らせるユートピアを設計し、我々を試すのがこの「町」の構えだ。
「自由と友愛の印、パーカー」が示すようにフランス革命からの衆愚と支配の歴史を踏まえつつ、風刺の矛先は日本社会モデルの行方。理知型の搭載エンジンを、後半は情動性にギアを替えて突き進むがアイロニカルな視座は手放さない。東大の表象文化論からCM業を経た荒木伸二監督の破格の長編デビュー作。
存在とは?
あまり声高に語ると人間性を疑われそうですが、こういう映画大好きです。
特に“町”の日常の風景と日本の“数字”が交互に出る序盤で一気に引き込まれました。
オリジナル脚本でこれだけ作りこんだのはなかなかです。
少ないガジェットで見せるSFセンスも嫌いではありません。中村倫也の独特の浮遊感と石橋静河の芯の強さが相乗効果を生んでいて物語を盛り上げます。
また、名バイプレイヤー山中聡が抜群のインパクトを残しています。。