アジアの天使 (2021):映画短評
アジアの天使 (2021)ライター3人の平均評価: 4
石井裕也のニューフェーズ「天使の時代」
『茜色に焼かれる』の前に韓国で撮られたロードムービー。不思議なほどシンプルな優しさと幸福感に満ちている。『町田くんの世界』(19年)から強い連続性が見られる池松壮亮。天使はオダギリジョー(&尾野真千子)主演のTBSドラマ『おかしの家』の続きでもある。短編『幸子の不細工な天使たち』(10年)で初登場した天使の概念が「言葉」を超えるものとして培養されている。
石井裕也は日本論の更新を『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17年)まで継続させ、必然の延長として外に飛び出した。もちろん『生きちゃった』(20年)で「堕ちた天使」を演じたパク・ジョンボム監督がプロデュースに就いているのも重要だ。
とにかくビールが飲みたくなる
石井裕也監督の前作『茜色に焼かれる』では、速攻で退場してしまったオダギリジョーだが、今回は愛を語るなど、ウサン臭さ満載の無責任キャラが全編に炸裂。まったく先の見えないロードムービーに身をゆだねながら、生真面目すぎる子連れの弟を演じる池松壮亮との掛け合いを楽しむ一作でもある。また、偶然出会った韓国人兄妹との言語や思想の壁を超えたコミュニケーションとして使われる食事のシーンが際立っており、ビールが飲みたくなるのは必至。天使の登場など、かなりの意欲作ではあるものの、『生きちゃった』『茜色に焼かれる』と比べてしまうと、作品の熱量を始め、いろいろとモノ足りないのも事実だ。
いつでも困難を救うのは国籍や言葉の違いを超えた愛だ
最愛の妻を若くしてガンで亡くし、頼りにならないチャランポランな兄を頼って、幼い息子と共にソウルへ渡った日本人の売れない作家。早くに両親を亡くしたことから、生活力のない兄や妹を養うため、身を粉にして働く落ちぶれた元K-POPアイドル。そんな人生どん底の2人が、ひょんなことから家族ぐるみで旅をすることとなり、やがてお互いの存在に救いを見出していく。石井裕也監督が韓国のスタッフと組んで韓国ロケに挑んだ最新作。格差社会という日韓に共通する厳しい現実を突きつけつつ、その底辺でもがき苦しむ両国庶民の温かな触れ合いを慈しみ深く見つめる。この困難な時代に我々が必要とするのは国籍や言葉の違いを越えた愛だ。