オン・ザ・ロック (2020):映画短評
オン・ザ・ロック (2020)ライター5人の平均評価: 3.2
不穏分子B・マーレーを、どう見るか!?
家庭内騒動にセレブ的世界が混ざり合うS・コッポラらしいドラマ。
NYを舞台にした都市生活者のコメディという意味ではウディ・アレン作品にも似ているが、ジョークよりも日常会話を優先させていることとキャラクターのリアルなダメさ加減は、どちらかというとエリック・ロメール風味。ママ友との取り繕った会話などの日常的な場面に、そんなリアルがにじむ。
予測がつく展開ゆえにドラマは平板といえば平板だが、それでもキャラの生身の感覚やNYの風景はチャーミング。B・マーレー演じる遊び人パパのキャラに関しては意見が分かれるところだが、不穏分子の匂いがプンプンして個人的には目が離せなかった。
相変わらず、雰囲気だけは良き
五十路を前にしたソフィア・コッポラ監督がやりたかったことが、NYを舞台にしたウディ・アレンのオマージュだったことに、ちょっと驚き。『SOMEWHERE』に似た期間限定の父娘モノというジャンルも、『ロスト・イン・トランスレーション』にも似たビル・マーレイ演じるプレイボーイの父親も、ボーダーシャツなどのカジュアル・ファッションに身を包んだ分身といえるヒロインも、いかにもソフィア・コッポラらしい。なのに、旦那の浮気調査という、本来面白くなるはずなのに、らしくないテーマを扱ったことで、すべてが中途半端になった感アリ。相変わらず、雰囲気だけは十分いいが、巻き込まれコメディとしてはイマイチ。
いかにもソフィア・コッポラっぽい映画ではある
ソフィアが、ちょいウディ・アレンを意識したような軽快ムード。「ボガートがバコールに告白した席」「浮気するならザ・プラザ」「カルティエで買うプレゼント」など、ネタはゴージャスで彼女らしい。チェット・ベイカーの曲もハマる。ただ主人公にしても、父親にしても、経済的余裕のある層の一人よがりな行動、贅沢な悩みの解決法に見えてしまう。ソフィアの映画なのでもちろんそこに批判精神や皮肉な視線は少ない。肝となるビル・マーレイの演技も浮つき気味。今作と比較しやすい『ロスト・イン・トランスレーション』や『SOMEWHERE』は、どこか深い部分で共感できたのだが…。2020年の現在だからこういう感覚になるのか?
ソフィア・コッポラ監督のヒロインが新たな領域に
処女作「ヴァージン・スーサイズ」は例外として、ソフィア・コッポラ監督はずっと「自分が愛されていないと思った子供は、どのようにして生き延びようとするか」を描いてきたのではないか。この"子供"は、男性であることもあり、身体的には大人だったりもするのだが。そしてその子供は監督自身と重なって見えもした。しかし、この映画はこれまでとは違う。今回のヒロインもかつてそういう子供だったが、そんな自分が他者を愛することができるようになったことを誇るのだ。
それにつけても、ビル・マーレイの演技が絶妙。まったく悪気なく自分しか愛することができず、それなのに魅力的というハマリ役を演じて、今回も魅了する。
ビル・マーレイに酔いしれよう!
ビル・マーレイが出ていることもあるのか、内容もあるのか、ジャームッシュの作品を見ているようなリラックス感があります。
これまで、どちらかというとデコラティブな作品が続いてきたソフィア・コッポラが一転して肩の力を抜いた作品を出してきて、新境地を開拓してきたなと思います。
やはり、作品の良さを際立たせているのはベテランのビル・マーーレイ。現役のプレイボーイキャラがものすごくはまります。
どこか居心地が悪そうで、することがなく退屈そうな彼を見ているだけで楽しくなります。