春江水暖~しゅんこうすいだん (2019):映画短評
春江水暖~しゅんこうすいだん (2019)ライター4人の平均評価: 4.3
ダイナミックな映像の中で繰り広げられる現金な話
中国山水画にインスピレーションを得た映像が素晴らしいとか本作を讃える視点は多々あれど、何が魅力的って中身が極めて俗な点。なにせこの一族、終始金で揉めている。借金返済を迫られて吐く小狡い言い訳に金が基準の結婚など。拝金主義と言われる中国の市井の人たちをこれほど正直に描いた映画はあるだろうか。しかも演じているのが、監督の親戚や友人たちだというから笑っちゃう。そこには既存の映画作りへの抵抗もあったのでは? リアルさを追求すれば科学の力で年齢に抗う俳優より、その土地の水を呑み年相応のシワを刻んできた彼らの方が敵役。続編を制作予定らしいが、彼らにはこのままの味を保ち続けて欲しいと願うばかり。
山水画の如き映像美で描かれる中国庶民の過去・現在・未来
歴史と伝統が息づく山河豊かな中国の地方都市・富陽。急速な経済発展によって再開発の進むこの街で、時代の荒波に揉まれる大家族の喜びと悲しみと苦悩を、四季折々の絶景を交えながら丹念に描く。細部まで綿密に計算されたロングショットと長回しによって捉えられる、まるで山水画の如き古都・富陽の幻想的な美しさは圧巻!しかし、そこに暮らす庶民の生活は決して楽じゃない。古い価値観に縛られながらも激変する時代を懸命に生きる親世代と、そんな親たちに抵抗しつつ人生を切り拓こうとする若者世代の姿を通じ、平凡な庶民の過去・現在・未来を浮き彫りにする。ジャ・ジャンクーの厳しさとホウ・シャオシェンの瑞々しさを兼ね備えた傑作だ。
流れる映像に陶酔させ、人生に感情移入させる、恐るべき若き才能
「山水画」「絵巻」という形容にふさわしく、要所要所の映像、その構図と静謐な美しさに、魔力的に恍惚となってしまった。中でも登場人物が川で延々と泳ぎ、岸に上がって歩き、船に乗るまでを横移動のカメラでゆったりワンカットで追う10分ものシーンは、ここだけ観るために劇場へ行く価値があるほど、映画の「豊潤さ」を実感。過激なアクションを遠景で見せるなど、長編デビューとは思えない熟練の演出に感心しまくり。
演技未経験の親類や知人をメインキャストに起用したことで、一人っ子政策、急激な再開発という中国の社会派的側面が、国を超えて共感しやすい目線に降りてくる。奥深く心に迫るというより、あくまで優しく…という感覚で。
山水画の絵巻物の形式で世界を写し取る
絵巻物を巻き広げていくと、新たな風景が出現していき、それと同時に時間が流れていく。この映画はその形式で世界を写し取る。作中でも山水画の絵巻物が映し出されて、同じものだということがよく分かる。画面は大河の流れを映し出しながら、流れに沿って水平移動していく。カメラの移動速度は、大河を流れる水と同じ緩やかさで、同時に映画の中を流れる時間とも呼応している。初夏から始まり、秋、冬、春を通ってまた初夏へ。カメラが映し出す大河の周囲には、変わらない山河があり、激変する建造物があり、老母と4人の息子それぞれの家族の暮らしがあり、それらもまた変わらなかったり変貌したりする。そして、時間がゆっくり流れていく。