ロード・オブ・カオス (2018):映画短評
ロード・オブ・カオス (2018)ライター4人の平均評価: 3.5
過激に暴走していく若者たちはカルトそのもの
有名バンド、メイヘムを中心とするノルウェーの黎明期ブラックメタル・シーンの狂騒を描いた実録青春ドラマ。過激なパフォーマンスだけでは飽き足らず、まるでお互いの邪悪さを競うかのように教会の焼き討ちやホモフォビア殺人などの犯罪行為へと走った彼らの実像に迫るわけだが、そこから浮かび上がるのはあまりにも未熟な若者たちの姿だ。退屈な日常に刺激を求めた若者たちがメタルロックと悪魔崇拝に傾倒し、親のすねをかじる中心人物ユーロニモスは過激な言動で自分の優位を誇示しようとするが、それを真に受けた仲間たちが勝手に暴走していく。マンソン・ファミリーからトランプ信者に至るまで、あらゆるカルトの基本構造がここにある。
度を超えた音楽への情熱は、狂信へ、そして悲劇へ
ブラックメタルという音楽には悪魔崇拝という側面がある。が、真剣に悪魔を崇拝したら、破壊や殺人さえも正当化できる。そこに主人公の悲劇があった。
メイヘムはブラックメタルの祖として知られる実在のバンド。本作で描かれる犯罪行為はリーダーがメンバーに殺されたこと以外は証明されておらず、放火や殺人は他のバンドの逸話だろう。興味深いのは、悪魔崇拝に通じる狂信の恐ろしさ。度を超えたそれは、音楽への情熱を超越してしまうのだから。
主要キャラふたりの関係性の変化も細かく描かれ、支配する側がされる側へと転じるなどの人間ドラマは見応えがある。破滅という点では『シド&ナンシー』にも通じる力作。
北欧のブラックメタル界に散った徒花のような友情
音楽性の違いやメンバーの不仲などバンド解散にはさまざまな理由があるけれど、メンバー間で殺人事件を起こしたのはメイヘムだけ? ブラックメタル界では有名な事件を真偽交えてドラマ化したサスペンスで、メイヘムの成り立ちから悲劇的な最後までをバンドの中心人物ユーロニモスとメジャー思考の強いヴァルグの関係を軸に描いている。自分探しをする青年たちの友情がライバル関係に変わり、溝が徐々に広がっていくさまは普遍的な青春ドラマとも言える。J・アカーランド監督は元ブラックメタルバンドのドラマーで、メイヘムにも詳しかった彼なりの追悼でもあるのだろう。R・カルキンの繊細な演技と、E・コーエンの不気味さが好対照だ。
北欧の暗い森がこの物語によく似合う
若者たちの妄想と鬱屈と情熱が絡み合い、誰も制御できない異常な事態に陥っていく。そんな状況はどんな場所でも起こり得るが、当事者たちが白塗り化粧に長髪で悪魔崇拝を歌うブラック・メタルバンドで、しかも背景は北欧ノルウェーの暗い森ときて、ビジュアル的にぴったりハマる。そのうえ、虚構を織り交ぜてはいるが、下敷きには実話があるとのことで闇が深まる。
監督はスウェーデン出身、本作の次に『ポーラー 狙われた暗殺者』を撮るヨナス・アカーランド。監督自身が元メタルバンドのドラマーで、この事件当時、同じシーンにいたという事実にも驚愕。ちなみにマコーレー・カルキン兄弟の末っ子ロリーは、白塗りの黒髪がお似合い。