のさりの島 (2020):映画短評
のさりの島 (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
衰退する日本の田舎と豊かな時代を知らない若者たち
熊本県天草市、シャッター街と化した薄暗いショッピングアーケード。とある楽器店にオレオレ詐欺の受け子の若者が足を踏み入れたところ、ひとりで店を守る老女が若者を自分の孫だと思って招き入れ、なんとなく成り行きで若者は老婆のもとに居候することとなる。そんな2人の微笑ましくもハラハラとする共同生活を軸に、急速に衰退する地方都市に暮らす人々の日常を描く作品。中でも注目すべきは、かつて商店街が大勢の買い物客で賑わった豊かな時代を知らずに育った若い世代の、故郷を愛するがゆえの無力感だ。これは現在の日本の田舎が直面する現実であり、恐らく近い将来やって来る日本という国全体の風景なのかもしれない。
「のさらん」の意味がようやくわかったかも
幼少期に数年過ごした天草を舞台にした物語なので、見る前から惹きつけられた。見慣れた風景は失われていたものの、画面から感じられる町の雰囲気は、どこか懐かしい。ブルージーなハーモニカやラジオ放送などの音使いが巧みで印象に残る。町おこしの意図もあるだろうが、自分の居場所を探す人と既に見つけた人の、心を豊かにする一期一会が心に沁みた。熊本県人が使う「のさらん」の意味がようやくわかったかもしれない。そして、最近注目している藤原季節がいい演技を見せる。天草の人々の素朴な温かさに触れ、心の奥に溜まった澱を溶かしていく詐欺師青年の微妙な変化をしっかりと表現していて、今後への期待も高まった。