逃げた女 (2020):映画短評
逃げた女 (2020)ライター2人の平均評価: 4.5
見る人の数だけ答えがある女たちの会話劇
結婚5年目にして初めて一人だけの休暇を得た平凡な女性が、ソウル郊外に住む3人の女友達のもとを訪ねて回る。ただそれだけの話。これといって特別な出来事や大きな事件が起きるわけでもなく、とりとめのない会話の中から浮かび上がる登場人物たちの複雑な感情の機微を読み解いていくタイプの作品だ。身勝手な男たちに失望して愚痴をこぼしながらも、それなりに充実した日常を送る友人たちに対し、片時も離れることのない夫とのラブラブな結婚生活をのろけてみせるヒロインだが、しかしその表情はあまり幸せそうには見えない。この漠然とした嚙み合わなさが何を意味するのか?見る人の数だけ答えがあるはずだ。
呆気に取られる絶対領域へ
これはホン・サンス流儀のひとつの極点かもしれない。三つのパターンの「反復と差異」だけで、なぜこんな芸当が可能なのか? 驚嘆しかない77分。また今回はメインのフレームから男たちが閉め出され、防犯カメラやインターホンの窮屈なモニター画面に押し込められる。最後にちょろっと、いかにもこの監督らしい「先生」と呼ばれる中年男性が登場するが、もう彼すら「女たちの世界」に浮上することはない――。
エリック・ロメールの「六つの教訓話」や「喜劇と格言劇」シリーズなどの進化形といった形容は書き飽きた。徹底した軽みから、人生の機微や宿業を奥底まで静かに凝視する唯一無二の凄みがにじみ出る。まさしく現代映画の最尖鋭。