親愛なる君へ (2020):映画短評
親愛なる君へ (2020)ライター2人の平均評価: 4
血縁関係より深い繋がり
短編『シーディンの夏』以来、東京国際映画祭の常連監督でもあったチェン・ヨウジエ監督作が、久々に劇場公開。いかにもチェン監督らしい繊細な演出が随所に光り、登場人物たちの心の機微が描かれていく。一人の青年の冤罪の物語として幕を開け、ミステリーとして構成された脚本は、LGBTに対する偏見や介護問題、そして血縁関係より深い繋がりなど、さまざまな社会的テーマに切り込んでいく。それだけに、台湾金馬奨で競い合った『1秒先の彼女』に勝るとも劣らないほどの仕上がりに。また、キーパーソンとなるおばあちゃん役を演じたチェン・シューファンの存在感たるや、主演作『弱くて強い女たち』以上といえる。
僕が女性なら同じ質問をしますか? セリフでテーマを突き刺す
家族と思われる人々の食事が描かれるオープニングから、人間関係に想像力が広がり、さらに主人公が罪に問われている描写で、ドラマがどう転んでいくか読めない不安定さに引き込まれる。脚本と構成、その綿密な巧妙さで、主人公の不安と哀しみ、揺るぎない覚悟に寄り添っていく感覚。見出しに挙げたような、テーマが胸に迫る名セリフも数多い。
すでにこの世にはいない人物によって、結びつけられた新たな家族。老いた母が、息子の死をどう受け入れ、どうやって彼の幸福を確かめるのか。そこには純粋な愛、人と人の絆を素直に認めたいという、まっすぐな作り手の思いが貫かれる。後味は切なく、届くメッセージは強靭という見本のような一作。