レミニセンス (2021):映画短評
レミニセンス (2021)ライター5人の平均評価: 3.4
二丁拳銃をブッ放すダニエル・ウーが圧巻
ヒュー・ジャックマンが、『ミッション:インポッシブル』シリーズのヒロイン2人相手に、SF風フィルムノワールの世界に没入。ファムファタールが「Where or When」を歌うクラブや『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』風な記憶潜入装置などにレトロ&アナログさを感じるうえ、水没した街並みなど、作り上げられた世界観はなかなか興味深い。とはいえ、謎解きミステリーとしては、かなり強引かつ微妙。そのためか、ハードボイルドごっこで終わっており、ラストに関してはカタルシスを微塵も感じられず。なんだかんだ、なぜかシャツの胸元がはだけ、二丁拳銃で参戦するダニエル・ウーのインパクトが残る。
未来に希望が持てない今、幸せは過去の記憶だけ?
記憶を追体験できる近未来を舞台にしたミステリー風味のラブストーリー。死にかけた男の記憶で消えた恋人メイの過去を発見したニックの恋人探しという形で進み、時制を行き来しながら、謎と真実を明らかにしていく。『ウエストワールド』チームが関わった映像や美術はセンスがいいし、役者陣も好演。愛に執着するニックの苦悩を声と表情ににじませるジャックマンとファム・ファタールを演じるR・ファーガソンの相性抜群。彼女はジャジーな歌声も披露して素敵だ。結末は見る人によって感想が異なるだろうが、ニックの選択は女心をくすぐりそう。とはいえ、未来に希望が持てない今、幸せを感じられるのは過去の記憶だけなのかも。切ない。
入口は気鋭SFサスペンス的だけど、出口では別の感慨が…
水没都市というシュールなビジュアルだが、ここ数年の世界の異常気象からすれば、日常と地続きな感触。一応、舞台は近未来っぽいが、スマホやPCの使用シーンが極力控えめで、主人公が使う記憶潜入装置もレトロなデザイン。謎めいたヒロインが歌う名曲「Where or When」の歌詞のように、時間と場所の概念が消えていく不思議感覚のSFサスペンス。とは言っても、兄のように先鋭的な作りではなく、ノーラン弟とその妻の作劇は、オーソドックスな人の温もりを追求している印象。
美しい記憶を蘇らせ、過去に浸るのも人間の欲望。つねに先を見て思い出を振り返らないのも人生。観終わった後、静かに心がかき乱される人も多いのでは?
SFである意味がちゃんとある
物語はクラシカルといってもいいノワール映画。
変則的な探偵がファムファタールと出逢ってしまい、そこから大きな事件に巻き込まれていきます。
戦争と海面上昇で荒廃した近未来が舞台ではありますが、メインのレミニセンスの装置以外はアンティークと言ってもいいほど時代を感じさせるものばかり。この辺りは往年のハードボイルド小説を思わせる、意図的な配置であると思います。
それでいて、クライマックスにはSFであることがちゃんと機能したエンディングを迎えていて、ジョナサン・ノーラン恐るべしといった逸品に仕上がっています。
ラストシーンがなんとも言えない気持ちにさせる
近未来を舞台にしたSFでありながら、ストーリーやビジュアル、全体の雰囲気はクラシックなフィルムノワール。アールデコな建築デザインを残しつつ水の街と化したマイアミの情景は、とりわけ印象的。そんな中で、映画は、恋と執着の境目とは、また過去の思い出にしがみつくことは健全なのかなど、いろいろ深いことを問いかけてくる。アクションや犯罪スリラーの要素もあるストーリーは若干込み入った感じがするものの、最終的には納得する形でまとまる。なんとも言えない気持ちになるあの最後は、今年見た中で最も心に残るラストシーンだ。アジア系女性監督による、メランコリーかつ野心的なオリジナル作品。