プライムタイム (2021):映画短評
プライムタイム (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
ポーランド社会の過去を見つめ未来を憂う力作
1999年の大晦日、ポーランドのテレビ局にひとりの武装した若者が乱入し、生放送中のスタジオを占拠して何かを訴えようとする。新世紀への期待とミレニアム問題の不安に揺れたこの年は、ポーランドがようやくNATOに加盟した過渡期でもあった。劇中では華やかなイベント番組や音楽番組と並行して、国外へ出稼ぎに行く若者たちも映し出されるが、もともと保守的な土壌のポーランドでは貧富の格差も著しく拡大。当時の若者は日本のロスジェネ世代と似た状況にあった。主人公の主張内容は最後まで明かされないが、容易に想像は出来る。これは20年前の混沌を振り返ることで、昨今の右傾化するポーランド社会の先行きを憂う作品と言えよう。
観客に考えさせ、想像させる密室スリラー
設定はジョディ・フォスター監督の「マネーモンスター」に似ているが、今作は良い意味で曖昧で謎が多い。テレビ局に押し入り、人質を取った主人公が要求するのは、言いたいことがあるから自分をテレビに出せということ。彼が何を言おうとしているのかは、彼が交渉するプロデューサーにも、警察にも、映画を見ている人にもわからない。ただし、彼の過去を含め、いくつかのことは、映画の中で少しずつヒントが与えられていく。そこが良いと感じる人もいれば、そうでない人もいるかもしれない。舞台が1999年に据えられたのはテレビがまだ強かった時代だから。「聖なる犯罪者」でも光ったビィエレニアがまたもや強烈な存在感を見せる。