トランスフォーマー/ビースト覚醒 (2023):映画短評
トランスフォーマー/ビースト覚醒 (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
80sから90sへ、時代の空気を生かした再起動
ドラマの進行がどんどん慌ただしくなっていったマイケル・ベイ版シリーズを『バンブルビー』で一旦リセットしたのは正解だろう。『バンブルビー』で80年代を背景にしたのと同様に、本作では90年代のレイドバック感を生かす。
人生に行き詰っている主人公には90年代のブラックムービーのような空気感が。ブルックリンの下町ムードも映え、どこにでもいそうな人間が地球外生命体のバトルに巻き込まれる、そんな意外性につながっていく。
もちろん、『トランスフォーマー』なので戦闘が始まれば目を見張らせる。とくにマチュピチュでのアクションは、それだけでも独特だが、縦横無尽の戦闘描写に唸った。
シリーズの主役はトランスフォーマーだと証明
そう、このシリーズの主役は、トランスフォーマーたちなのだ。本作はそれを証明してくれる。これまでは主人公が人間で、人間たちのドラマと、トランスフォーマーたちのドラマが描かれたが、今回は違う。トランスフォーマーの物語に人間が協力し、一緒に行動する。また、人間と親しくなるミラージュは高校生のイメージで、小学生のようなバンブルビーとはかなり雰囲気が違う。そしてドラマにはサプライズも仕掛けられている。
この発想の転換に寄与したのは、脚本家ジョビー・ハロルドかもしれない。ドラマ「オビ=ワン・ケノービ」の原案・脚本、映画『ザ・フラッシュ』の原案に参加した彼が、本作の原案を担当、脚本に参加している。
新タイムラインに期待
前作であり初のスピンオフでもあった『バンブルビー』でシリーズのタイムラインがリセットされ、さらに増し増し路線だった作風もスリム化が図られました。今作はその路線に沿った作品で、シリーズの旨味と見せ場はキープしつつ、シンプルにしたほうが良い部分は余計なものを削って描いています。結果として登場キャラクターもエピソードも増えながらも127分で納まりました。人間パートの比重が減ったことをどうとるか、意見が分かれそうですが、トランスフォーマーを見たい人たちにとってはこれでいいと思います。夏の大画面にぴったりな大作です。
監督とキャスティングでモダンかつ新鮮になった
「バンブルビー」はチャーミングで個人的に好きだったが、派手なロボットのアクションを望む声にも応え、この最新作には両方が盛り込まれている。監督、主演ふたりの顔ぶれを見ても、このシリーズをモダンで新鮮なほうに持っていこうという意図は明らか。それは成功したと言えそう。好感度抜群のアンソニー・ラモスは観客が応援したくなるものを自然に持っているし、ドミニク・フィッシュバックもマイケル・ベイ時代のヒロインより(この手の映画とはいえ)リアルさがある。ユーモアもたっぷり。とくにミラージュの声にピート・デビッドソンを選んだのは大正解。90年代のニューヨークが舞台でノスタルジックな雰囲気があるのも良い。
トランスフォーマーに求める映像を、よくわかった監督の仕事
ゴリラやチーターなど野生動物に変形するマクシマルが大挙して登場することで、ビジュアル的な新しさは存分に満喫。おなじみのキャラも含め、トランスフォームの過程が、妙に凝ったアングルや編集を使わず、ものすごく観やすいカットで演出され、「この監督、よくわかってらっしゃる!」と感激した。
マチュピチュ遺跡での一大アクションの爽快感、シリーズ過去作のネタを玄人向けギャグで盛り込む余裕…と、濃厚に攻めまくる初期のマイケル・ベイとは一味違うセンスも好印象。
新たな主人公のアンソニー・ラモスは、この世界でおなじみの、不満な人生→ヒーローへの成長曲線を共感たっぷりに体現。ありがちな展開に心地よい温かみを加えた。