スターダスト (2020):映画短評
スターダスト (2020)ライター3人の平均評価: 2.7
誰もが「ありのままの自分」でいられるとは限らない
まだアーティストとしての自己確立に迷っていた若き日のデヴィッド・ボウイが、あの伝説的な別人格「ジギー・スターダスト」を生み出すに至った過程と、この特異なキャラクターに込めた知られざる想いを描く。表舞台のカリスマ的な自分と、壊れやすくて脆い素顔の自分。音楽を通して目指す時代を先駆けた理想と、まだそれを受け入れる準備の出来ていない世間の無理解。初めての全米プロモーションツアーで、ボウイはその現実を嫌というほど思い知らされる。誰もが「ありのままの自分」でいられるとは限らない。当時の彼にはジギー・スターダストがどうしても必要だったのだろう。'70年代初頭の音楽業界の泥臭い舞台裏も興味深い。
70年代のムード満点のなか、カリスマの素顔が見え隠れ
伝説のミュージシャンのターニングポイントを描くので、周囲の要望と自身の方向性との行き違い、家族に起因する不安、その葛藤を経ての変化が伝わる作り。歌舞伎を参考にしたメイクや衣装の舞台裏などおなじみのネタから、プロモーションでの突拍子もない言動といった素顔も強調し、ボウイのファンから、彼が身近ではない層まで、その是非はともかく、まんべんなくアピールするのでは? 全体的には淡々と展開。
権利関係で描けなかった部分は、はっきり言って作品の良し悪しを左右しない。使用可能な曲のシーンに訴求力があればカタルシスを得られたはずだが、ボウイ役が敢闘してるだけに、ステージの映像と編集は、ちょっと可哀想…。
スターがスターになる直前の、内面の葛藤にフォーカス
故ボウイ・サイドの許可を得ず製作されたということを、まず頭に入れておきたい。そういう点では対象の協力を得られなかった『イングランド・イズ・マイン』と同様だが、本作のテーマはより明白だ。
1971年のひと月に焦点を絞り、心を病む兄との葛藤に苦しみつつ、ヒット曲の出ない状況と格闘していたボウイの物語。そんな苦悩を彼がどのように克服したのかが物語の主軸だ。
ルー・リードとの幻の初対面などの史実の再現はファンには面白く、時代の空気ともども興味深い。俳優が似ていなかったり非公式作品ゆえにボウイ作の楽曲が使用されていないことに不満はあるが、ワンテーマに絞ったドラマ構成は評価されるべきだろう。