シチリアを征服したクマ王国の物語 (2019):映画短評
シチリアを征服したクマ王国の物語 (2019)ライター2人の平均評価: 4
オディアール作品の脚本家も参加の深イイ話
原作は児童文学ながら、童話的テイストから一大叙事詩と化していく世界観。そして、『預言者』などジャック・オディアール監督作で知られる脚本家トマ・ビデガンが脚色で参加していることでも分かるように、ある事件を機に人間と関わったことで、次第に悪徳に染まっていくクマたちの姿が描かれる、深イイ話感。もちろん、建築学や西洋美術に裏打ちされた画力と色彩美に加え、オーソン・ウェルズから影響を受けた光と影の使い方など、バンド・デシネ作家でもあるロレンツォ・マトッティ監督の作家性にも圧倒される。オリジナル版同様、ハスキーヴォイスで三役を演じ分ける伊藤沙莉の起用が正解すぎる吹替版もおススメ!
色、構図、動き、そのすべてに魅せられる
まず色に魅了される。白い雪山、青い空、赤いクマたち。色彩はすべて鮮やかなのに、柔らかい。さらに構図と動き。とくに、人物が踊るとき、クマが行進するときなどに、その物自体の動きだけでなく、それによって生じる影が変形しながら動き、その物と影との絡み合いは目眩がするほど魅惑的。
監督のロレンツォ・マトッティはイタリア生まれのパリ在住。建築学を学んだ後にイラストやコミックで活動し、2003年にグラフィック・ノベル「ジキル博士とハイド氏」でコミック界で最も権威ある賞のひとつ、米アイズナー賞を受賞した人物。彼のイラストはすでに色と動きに満ちているが、その魅力がアニメになってさらに増幅されている。