マクベス (2021):映画短評
マクベス (2021)ライター2人の平均評価: 4.5
不要なものを排した映像で魅了する
ジョエル・コーエン監督の映像美に魅了される。直線、光と影のコントラスト、左右対象の構図を多用したモノクロ映像は、ドイツ表現主義の画家たちが美術に参加した映画『カリガリ博士』を連想させたりもする。ラスト近くまで音楽はなく、風の音、ドアを叩く音、水滴の落ちる音が、さまざまに響く。そのようにして、不要な色や装飾や音のすべてを排除したミニマルな映像が、シェイクスピアが書いた言葉を際立たせ、聞き入らせる。
そんな映画の中で、監督がどうしても描きたかったのに違いない、強烈な映像表現が用いられたシーンが何度が出現し、映画だから表現出来ることを見せつける。この監督の、映像の作り手としての魅力を再確認。
皮肉にも、これほど「劇場」という空間にふさわしい作品はない
400年前に書かれたシェイクスピアの原作を、オリジナルに限りなく忠実に再現することに成功。この映画が、あと数百年、原作の偉大さを語り継ぐと言っても大げさではない。
美しいセリフの数々も一見、クラシカルながら、人間の支配欲、ジェンダーなど現在の世界を重ねると、より怖かったりも。
舞台のセットを意識した美術は、映画ならではの高低差を生かしたりして、総合アートの域。照明の効果もモノクロ映像の神秘的魅力を最大限に引き出し、炎のオレンジ、血のドス黒さ、ワインの赤も感じさせる。各演技の豊潤さは言うまでもない。
基本的に配信の作品だが、音響も含め、暗闇の中の大画面が舞台の世界と化す奇跡を味わってほしい作品。