ストレイ 犬が見た世界 (2020):映画短評
ストレイ 犬が見た世界 (2020)ライター3人の平均評価: 4
人間たちが蠢く都市空間で我々は「一匹の犬」となる
2016年のドキュメンタリー映画『猫が教えてくれたこと』が表なら、こちらは裏。本作の野良犬たちが生きる場所は、同じイスタンブールでもザラついた現実が蠢くストリート。彼らは自由な存在とも言えるが、あくまで苛酷な自己責任社会のサヴァイヴァーだ。野良犬たちは社会の下層の当事者であり、シリア難民の少年三人組などに寄り添う仲間にもなる。
エリザベス・ロー監督は犬儒派(キュニコス派)を代表する古代ギリシャの哲学者ディオゲネスらの格言を引用しつつ、映画全体を「犬が見た世界」として組成していく。動物の擬人化ではなく、ボーダーを超えて世界の見え方を更新する視座は『犬は歌わない』『GUNDA』等と共振を示す。
やはり犬は「人間の最良の友」なのかもしれない
野良犬の捕獲や殺処分が法律で禁じられているトルコ。これは大都会イスタンブールに暮らす野良犬たちの日常に密着しつつ、彼らの目線の先にある人々の生活を映し出したユニークな動物ドキュメンタリーである。危害を加えられる心配がないこともあってか、街中を堂々と自由気ままに駆け回る野良犬たち。しかし、彼らが見つめる人間の暮らしはとても厳しい。路上生活を送るシリア難民の少年たち、寒空の下で焚火に集まる肉体労働者たち。誰もが貧困と生活苦に疲れ切っている様子だが、そんな彼らも人懐こい野良犬たちには思わず顔をほころばせる。まるで心の支えであるかのように。果たして、人間と野良犬のどちらが幸せなのだろうか。
犬たちの目線から見えてくるもの
安楽死や捕獲を違法としていることで、野良犬と人が共存しているトルコ・イスタンブールが舞台となる、“イヌ版『猫が教えてくれたこと』”。哲学者や学者の名言とともに描かれていくのは、すべてを悟っているような大型犬や、生きるために人懐っこかったり、シリア難民の心の拠り所になっている小型犬など、さまざまな状況に置かれた彼らの日常。監督が香港出身ということもあってか、西洋と東洋の接点となってきたトルコの異国情緒もしっかり感じ取ることもできる。その一方で、イヌたちとほぼ同じ目線のローアングルで捉えたことで見えてくる光景は、現代社会における外国人や移民の排斥問題にも繋がってくる。