パリ13区 (2021):映画短評
パリ13区 (2021)ライター3人の平均評価: 4
いま「最良のフランス映画」と呼べる形のひとつでは
原題は「オランピアード」。セーヌ川南岸の13区で巻き起こる人間模様。アジア系、アフリカ系、白人女性という人種のミックス。巴里の空の下を描く仏映画の伝統と、『憎しみ』以降の移民社会を背景とするバンリュー(郊外)映画の中間、あるいは止揚形か。オディアール組の共同脚本にセリーヌ・シアマとレア・ミシウスが参加。ヌーヴェルヴァーグ的な映像タッチなど実に若く瑞々しい。
個人主義に基づく恋愛・性愛のズレや衝突、融和の可能性を絶妙な距離感で見つめる。経済的に裕福なわけではないが、浮遊した生活を送るアラサーたち。その匙加減も都市生活者の群像ドラマとして申し分ない。サヴェージズのジェニー・ベスの起用も良し!
ライト感覚で楽しめるミレニアル世代の青春群像劇
“監督:ジャック・オディアール×脚本:セリーヌ・シアマ”という、身構えてしそうなコラボだが、意外にもミレニアル世代の青春群像劇。誰もがSNSで繋がれる時代、実際に愛し合うことの難しさを訓えてくれる。セックスシーンは多めだが、流れるようなカメラワークとモノクロ映像が効果的で、猥雑な印象は皆無。『マンハッタン』『モード家の一夜』あたりにオマージュを捧げつつ、普遍的なラブストーリーに落とし込んだ御年69歳のオディアール監督の感性の若さに唸らされる。その一方で、『リード・マイ・リップス』を思い起こさせる原点回帰にニンマリ。ストーリーを後押しするエレクトロ・サウンドに、★おまけ。
パリはモノクロが合うと実感。赤裸々な愛のパートもすんなり没入
メインの登場人物4人、その「多様性」を存分に生かし、パリでの愛のドラマをこってりと奏でるのは、いかにも今っぽい。けれどこの映画、モノクロで描くことで、今っぽい物語にノスタルジー感を帯びさせる。4人の言動はかなり大胆で激しかったりするし、要所の愛の描写も生々しかったりするけれど、モノクロの優しい味わいが際立ってインパクトを中和。時間や国を超えて親密さを感じてしまうから不思議。ラブシーンは極上アートのよう。
コールセンターや不動産業など登場人物たちの仕事もリアルに切り取り、とくにネット上のセックスワーカーの素顔は本作に愛おしい光を与える重要パート。一瞬だけカラーになるシーンもやけに意味深だ。