親愛なる同志たちへ (2020):映画短評
親愛なる同志たちへ (2020)ロシアで実際に起きた市民虐殺事件を描く傑作
1962年フルシチョフ政権下のロシアで起きた大量虐殺事件の映画化だ。物価上昇に食糧不足、さらに大幅な賃金カット。我慢の限界に達した労働者たちは、改善を求めて大規模デモへ繰り出すが、そんな彼らに軍隊が銃を向ける。浮かび上がるのは、国民の暮らしや生命よりも体制の維持を重んじる政府、保身のため権力者に忖度する地方の役人や軍人。躊躇せず同胞を殺す彼らだが、実は必ずしも悪人ではない。この社会で生き残るため仕方ないと諦めているのだ。国家の正義を信じる愛国者のヒロインも、娘が虐殺事件に巻き込まれたことで、それがただの幻想と願望であることを思い知らされる。巨匠アンドレイ・コンチャロフスキー渾身の傑作だ。
この短評にはネタバレを含んでいます