山歌 (2022):映画短評
山歌 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
日本人が本当に失ったものとは何だったのか
かつて日本に存在した流浪の民・サンカ。高度経済成長期の1965年、家庭を顧みない仕事人間の父親に反発する中学生の少年は、良い大学や良い会社に入るため勉強に専念しろと田舎の祖母宅で夏休みを過ごすことになり、そこで知り合ったサンカ家族の自由な生き方に共感する。失われた20年どころか30年を超え、さらにコロナ禍で政治も経済も破綻寸前に陥ってしまった今、「我々が本当に失ったものとは何だったのか」「豊かさとは何を意味するのか」を日本人に問う作品。『子どもたちをよろしく』や『罪の声』に続いて、その純粋さゆえに怒りや屈折を抱えた少年を演じる杉田雷麟がはまり役。日本の原風景を捉えた美しい映像も素晴らしい。
生命の息吹も感じる圧倒的な自然描写
かつて実在していた山の漂泊民・サンカ(山窩)。いわば、“日本のジプシー”を描くことによって、現代日本に一石を投じる意欲作。安定すぎる渋川清彦の存在感に、『半世界』同様、思春期特有の揺らぎを表現する杉田雷麟。3度目の共演となる2人の掛け合いもいいが、渋川の娘役を演じる小向なるは、その身体能力を含め、今後大化けしそうな予感だ。1965年という時代背景についてなど、脚本の詰めの甘さも目立つが、生命の息吹も感じる圧倒的な自然描写を捉えた笹谷遼平監督の熱意がダイレクトに伝わる。また、ここまで壮大なテーマを扱いなから、余計なものを削ぎ落し、77分にまとめた力量も買いたいところ。