さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について (2021):映画短評
さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について (2021)90年前のドイツに21世紀の世相を映し出す野心作
1930年代初頭のドイツ。慢性的な経済不況によって疲弊した庶民は良識や道徳心を失い、社会の隅々まで腐敗と堕落と弱肉強食が蔓延し、人々の心を蝕む悪意と無関心と貧困がナチスの台頭を許してしまう。これは、そんな荒廃した首都ベルリンの狂騒と狂乱の中で、ささやかな青春と幸福を奪われていく若者たちの姿を、アバンギャルドな映像表現で描いた野心作。まさしく貧すれば鈍する。人心が荒んだ世の中で、絶望し傷つくのは正気を保った者ばかりだ。監督が90年前のドイツに21世紀の暗い世相を映し出しているのは明らか。意外にも演出のタッチは軽やかだがテーマは重く、今の日本社会と酷似している点の多さに暗澹たる気持ちにもなる。
この短評にはネタバレを含んでいます