ルッツ 海に生きる (2021):映画短評
ルッツ 海に生きる (2021)地中海の眩い光と、生活のリアルな軋み
マルタ共和国製作の映画は日本初上陸。冒頭から網を引く音、漁船のモーター音などが聞こえる、太陽に照らされた地中海の色彩と光溢れる体感的な映像世界。描かれるのは限定的な社会システムの中で個人が追い詰められていく辛いお話。ヴィスコンティの『揺れる大地』を始め伊ネオレアリズモの系譜を受け継ぐ傑作だ。
語りも巧い。生活基盤に破綻が生じ、選択肢が乏しくなる。「さあ、どうする?」というサスペンスの発生はダルデンヌ兄弟に近い。さらにはブレッソン『バルタザールどこへ行く』流の人間を対象化して捉え直す「目」のショット。これがデビューのマルタ系米国人、アレックス・カミレーリ監督(88年生)は紛れもなく逸材なり。
この短評にはネタバレを含んでいます