ヴィレッジ (2023):映画短評
ヴィレッジ (2023)ライター4人の平均評価: 4
日本の今を映し出す絶望の村
無能な既得権益者によって財政が逼迫し、税金を目当てに建てた施設で自然環境を犠牲にする寂れた田舎。裏で悪いことをする連中が偉そうにふんぞり返り、事なかれ主義の住民たちは都合の悪い事実から目をそらし、出る杭は容赦なく打たれる。そんな現代日本社会の縮図のような村を舞台に、怒りと哀しみと絶望を抱えた若者の残酷な運命を描く。同調圧力にイジメに村八分。外面は良いが排他的で陰湿。なんでも自己責任で弱者は踏みつけ。変わるべき時に変わらなかった大人たちのせいで、なんの責任もない若い世代が割を食う。今まさに我々が直面し、克服せねばならない問題を次々と突きつける映画。現時点で藤井道人監督のベストだと思う。
今まで見たことのない表情を浮かべる横浜流星
盟友・藤井道人監督作で、『流浪の月』のDV男で一皮剥けた横浜流星が過酷な運命に翻弄される男を熱演。濃ゆいキャストの中、今まで見たことのない表情を浮かべる横浜に対し、どんなにどす黒い社会派なテーマを扱っても、観易いエンタメに昇華させる藤井監督のスタイリッシュなセンスもさすがだ。ただ、『ヤクザと家族 The Family』同様、どこか既視感あるエピソードが並ぶ印象は否めず、一ノ瀬ワタルの起用も『宮本から君へ』の二番煎じに見えるなど、手の内が読めてしまうのは事実。閉鎖的な村社会映画としても、「ガンニバル」後ではインパクトに欠けるが、何より重要なキーパーソンがミスキャストだったのが惜しまれる。
どうしようもない圧迫感
藤井道人監督&横浜流星待望の新作。とにかく息が詰まるような圧力を体感する映画です。抜け出したくても抜け出せない”どうしようもなさ”をそのまま物語にしたような感じがします。主演の横浜流星の光のない眼つきがとても印象的です。共演陣の黒木華、古田新太、中村獅童、そして一ノ瀬ワタルなどなど有機的に繋がり、見事に機能しています。また薪能がとても印象的に使われていて寓話性を高めています。
気楽に見られるわけではないですが、見ておきたい一本ですね。藤井監督でクローズドサークルのミステリーなどあると楽しめそうです。
日和った流れにせず、攻めの姿勢が俳優の顔つきも変える
盟友の監督の下で、横浜流星がまたギアを一段も、二段も上げて、追い詰められた主人公の諦念から、再生への希望、さらに先の激烈な運命を体現。その演技だけで圧倒され続ける。顔つきの変化には、生易しい“気持ち”だけでなく培われたテクニックも生かされ、どうやって撮ったか理解不能な危険なスタントにひるんだ。
山奥の小さな村、その独特な人間関係に今の日本の縮図が込められ、観ていてつねに、この国の未来に戦慄をおぼえる。この手のテーマの作品は時としてリアリティの少ない救いのエピソードで安堵させたりもするが、徹底して攻めてくる印象。
日本版『イニシェリン島の精霊』と感じる瞬間もあったが、本作はよりハードな後味。