窓辺にて (2022):映画短評
窓辺にて (2022)ライター5人の平均評価: 4.2
文学青年的イメージを活かした稲垣吾郎が好演
編集者の妻が若い人気作家と不倫していることに気付きながら、何の感情も湧き起らない元作家のフリーライター。そんな自分にショックを受けて思い悩む彼が、自由奔放な新進気鋭の女子高生作家との交流を通じて自身の内面と向き合っていく。物事の見方や捉え方はもちろんのこと、夫婦の愛情や男女の恋愛観なども人それぞれ。無理に自らを型にはめようとするよりも、自分に対しても周囲に対しても正直でいた方が、どんな結果になろうとも納得できるのではないか。そんな「ありのまま」をそっと肯定する作品。文学界を舞台にしていることもあって、どことなく「ゴロウ・デラックス」の文学青年的イメージを活かした稲垣吾郎も好演だ。
主人公は吾郎さんみたいに「内省と静かな情熱の人」
退屈さ、でさえもあれよと贅沢な時間へと変えてゆく、監督今泉力哉のドラマツルギー。彼は映画の“温度”を大切し、それによって毎回“湿度”も低く調整する。主演の「内省と静かな情熱の人」稲垣吾郎を筆頭に、出演者全ての体温を合わせて攪拌、本作の心地よい定温を設定している。
カメラを手にした主人公と義母(松金よねこ)との好エピソードは『スモーク』(監:ウェイン・ワン)を連想! 口語と間接表現を駆使した会話劇+実は野放図で暴力的な「好き」という感情の考察に磨きがかかり、「なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」(小津安二郎)に似た「今泉調」を、改めて噛みしめた。
出会うべくして出会った二人
ファーストカットから「出会うべくして出会った」と痛感させられる今泉力哉監督×稲垣吾郎が奏でる、優しく緩やかなセッション。当て書きながらも、『街の上で』の延長線上にある世界観で、パフェを食べ、ラブホに行き、「海物語」を打つという、あえて稲垣吾郎らしくないシチュエーションでの確信犯的演出にニンマリ。本作でも長回しカット、笑いを誘う3人の掛け合い、印象的なセリフ回しが冴えまくるなか、玉城ティナのヤンキー気質な彼氏を演じる倉悠貴に関しては、出番は多くないものの、確実に爪痕を残している。上映時間143分ではあるが、今泉ワールド独自の空気感にハマれば、長尺には感じないだろう。
なんて美しい仕上がり
稲垣吾郎を主演に迎えた今泉力哉監督のオリジナル脚本による新作は、まさに彼の「本道」だが、ひとつの至高と言える『街の上で』を経て、またゆるやかな変容と深化を見せているようだ。「書けなくなった作家」という主人公像など『こっぴどい猫』とリンクしつつ、業界システムとの距離も含め「自己実現の、そのあと」をどう生きるか、という主題が顕われている。
『永い言い訳』『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』『ドライブ・マイ・カー』など他作と比較できる要素もあるが、むしろ独特の穏やかな虚無と抒情が際立つ。諸行無常漂う私映画のタッチだが、明るさを失わないのが流石。玉城ティナや佐々木詩音など役者陣も皆素敵。
心地よい浮遊感
今泉力哉監督と稲垣吾郎というありそうでなかった組み合わせが非常に心地よい一本。
稲垣吾郎が漂わせる浮遊感と今泉監督の不思議な空気感がここまで相性が良いとは思いませんでしたが、考えて見れば同じ属性の人たちなのかもしれません。この組み合わせはほかの作品でもまだまだ見たいなと思います。また、稲垣吾郎の物書きというキャラクターも巧くはまっていて良かったです。玉城ティナの無邪気さも作品にいいアクセントになっていました。
映画を見終わったらパフェが食べたくなります。