渇きと偽り (2020):映画短評
渇きと偽り (2020)ライター3人の平均評価: 3.3
情も富も干上がり、ミステリーは濃密と化す!
『ババドッグ 暗闇の魔物』『ニトラム』などオーストラリア映画のスリラーは近年、力作が多いが、本作もヒケを取らない。
これらの強みは、舞台がオーストラリアの“見捨てられた地”であること。本作も同様で、干ばつ地帯の村で起こった殺人事件の隠蔽、その裏に隠された秘密にスリルが宿る。スリルの背景には、丁寧にエピソードを積み上げた演出力と編集力があり、田舎の庶民生活の生々しさとともに一気に見切った。
回想で語られる若き日の湖のみずみずしさは、現在の干上がった地と対をなす。ミステリーの重厚さはもちろん、時の流れの切なさも妙味。失われた故郷に虚無を見る、主演のE・バナの演技もイイ。見応えアリ!
乾ききった土地がコミュニティを象徴する
ゆっくりと時間をかけて紐解かれていくミステリー。フラッシュバックを差し込みつつ、ふたつの謎の出来事を次第につなげていくが、その間、手がかりを与えすぎることなく、緊張感を最後まで保つ。主人公アーロンはもちろんのこと、彼が組むことになるルーキーの警察官や、彼の昔の女友達、街医者など、脇のキャラクターもしっかりと築かれている。そして、雨が降らずにすっかり乾ききったこの土地もまた、重要なキャラクター。嘘にまみれたこの小さなコミュニティは、小さな火が出れば一気に燃え上がる状況にあるのだ。控えめな演技の中で、アーロンが抱える悲しみ、罪悪感、迷いを表現するエリック・バナは、いつもながら見事。
"偽り"に秘められた想いが胸を打つ
久しぶりに故郷に戻った主人公が、現在の事件を捜査する中でかつての出来事が甦っていく、という設定はミステリの定番パターンだが、本作独自の魅力が2つあり、それが映画の題名になっている。
"乾き"とは、その土地の状況のこと。若き日の主人公たちが川遊びを楽しむ光景の輝かしさとは対照的に、今は川の水は干上がり、何もかもが乾いている。それは主人公の心象風景でもある。そして"偽り"とは、登場人物たちがつく"嘘"のこと。人々は嘘をつき、嘘を言われた方はその理由を考えてしまうが、嘘をついた人の真の想いは測りがたい。
余談だが「キャシアン・アンドー」のモン・モスマ役オライリーが主人公の旧友役で出演。