そばかす (2022):映画短評
そばかす (2022)ライター5人の平均評価: 4.2
普通なんて所詮はただの最大公約数
異性と恋愛するのが当たり前。結婚して子供を産み育てるのが女の幸せ。そんな世間の「普通」からはみ出した女性が、周囲から押し付けられる「常識」という同調圧力に悩みながらも、自分らしい生き方と幸福を模索していく。他人に対して恋愛感情も性欲も全く感じないアセクシャルなヒロイン役に、どこか朴訥としたクールな佇まいが持ち味の三浦透子というのは絶妙なキャスティング。有力政治家の父親を持つAV女優やゲイの保育士、うつ病を患った父親など、同じく世間の「普通」からこぼれ落ちた人々との触れ合いを通じて、ヒロインが徐々に自らを肯定していく過程は共感しかない。普通なんて所詮は最大公約数に過ぎないのだから。
「鈴木先生」好きにはたまらない友情出演も!
『ドライブ・マイ・カー』に続き、タバコが似合う三浦透子だが、今度も恋愛感情が湧かないだけでなく、「トム・クルーズなら『宇宙戦争』」というクセのあるヒロインをモノにしている。しかも、「鈴木先生」好きにはたまらない北村匠海との共演も! 元AV女優という役をサラリと演じる前田敦子もいいアクセントになっており、『あのこは貴族』が刺さった人にもおススメの一本といえる。今回はドラマ「恋せぬふたり」と同じテーマを扱ったアサダアツシのオリジナル脚本を映画化した玉田真也監督。演劇畑出身と思えぬフットワークの軽さには驚かされるが、新たな恋愛映画の旗手として、どんどん巧くなっているのも事実。
今年の終わりに飛び込んできた2022年度の大きな収穫
NHKドラマ『恋せぬふたり』と同じくアロマンティック・アセクシュアルの主題を扱うが、映画だと本作が世界的にも初では?(来年春に大前粟生原作、金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が公開)。三浦透子扮する保守的な環境で暮らす主人公が、無性愛者である自分の存在証明――「これが私だ」という認識と主張を獲得していく様が丁寧に描かれる。
『his』からさらに一段上の達成に向かったアサダアツシの脚本は要注目。『宇宙戦争』や『シンデレラ』、「人間の声に近い」チェロ等々、ぎちぎちに意味が詰まった物語設計を、生っぽい実在感と爽やかな情感溢れる映画にした玉田真也監督&キャスト陣の連携も素晴らしい!
恋愛感情が起こらない「アセクシュアル」に真摯にアプローチ
周囲から何かと「恋人は?」と聞かれ、親は見合い話をもってくる。そんな状況に抗い、自分で決めた人生を生きたい…という映画は過去にもたくさんあったが、本作は主人公が恋愛感情が起こらない「性質」にきっちり向き合っている。生半可で甘い感動を誘いそうな予感もはらませつつ、絶対にそうしない作り手の意志が貫かれて好感。
初の単独主演となる三浦透子は、自分の内面との葛藤、相手の思いやりへの柔軟さ、瞬発的行動など、難しい曲線を熱演ではなく、あくまでも淡々と流れるように演じ、こちらも誠実な印象。希望を見つける瞬間の彼女の表情は、誰が観ても幸せな気分になるのではないか。
さりげない映画ネタ、音楽の持つ意味も効果的。
恋愛感情とは何だろう?という話
(not) HEROINE movies /ノットヒロインムービーズ 第3弾。企画もこなれて来た感がありますね。三浦透子単独主演としては本作が初と言われてちょっと意外な気もしましたが、そうなるんですね。企画がこなれて来たタイミングと巧く重なり良い主演作品となりました。恋愛とは何なのかを描く物語はこれまでもありましたが、”恋愛感情”についての映画というのはなかなかない話で面白い視点ですね。旧友役の前田敦子も良いですが、妹役の伊藤万理華がまた良かったです。映画ファンだとニヤリとするセリフのやりともあって楽しみどころの多い作品でした。