ファイブ・デビルズ (2021):映画短評
ファイブ・デビルズ (2021)ライター3人の平均評価: 3.7
少女の不思議な能力が小さな村の不都合な記憶を呼び覚ます
フランスの小さな村。どこかギクシャクとした家族。夫は黒人で妻は白人。彼らの娘は特殊な嗅覚を持つ。特定の匂いを嗅ぐことで、その匂いにまつわる過去を透視できるのだ。そんな少女が、かつて村で起きた暗い事件を「目撃」してしまい、母親の封印された秘密を知ることになる。保守的で閉鎖的なコミュニティに、脈々と受け継がれてきた偏見や差別。そこでがんじがらめにされた人間の苦しみと解放を描く。マイノリティに対する社会的な抑圧というテーマを、ファンタジーやスリラーの要素を絡めながら炙り出していくという語り口は、なかなか意外性があって斬新と言えよう。レア・ミシウスの演出はセリーヌ・シアマにも似た空気感が漂う。
「見えてしまう恐怖」を通じて描かれる、少女の成長物語
三人家族の何気ない日常が淡々と描かれるなか、そこに“謎めいた身内”が介入することで、それまでとは異なる光景が見えてくる『LAMB ラム』にも通じる導入部。一気に不穏な空気に包まれるなか、タイムリープという特殊な能力を通じて、娘としてはなかなか衝撃的な母親の過去を目撃してしまう。ミア・ミシウス監督の長編デビューでもあった前作『アヴァ』は「見えなくなる恐怖」を通じて一人の少女の成長物語を描いていたが、今回は「見えてしまう恐怖」を通じて少女の成長物語を描いており、自由奔放な母親のキャラも共通する。劇中、ボニー・タイラーの「愛のかげり」がキーワードとなっているところにも注目したい。
すべてがハイレベルの「超ジャンル映画」
走る車の俯瞰ショットで『シャイニング』の不穏さを連想させつつ、『ツイン・ピークス』型の閉鎖的な村の因果関係に、ジョーダン・ピール的な人種問題の渦を風刺的にぶっ込む。長編2作目のレア・ミシウス監督(仏、89年生)は、巧みな設計で米映画の影響を独自に変換させた傑作を放った。
少女と母を巡るタイムリープが『秘密の森の、その向こう』と重なっていたりなど、先輩セリーヌ・シアマとも共振(『パリ、13区』の共同脚本家でもある)。クィア主題系に「自分が産まれないかも」という少女の存在不安を持ち込んだのも秀逸で、父親の描き方も繊細。「見る/見られる」ショットの組み立て、視覚化されぬ「匂い」の映画的処理も見事!